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男「好きです。愛してました」
- 1 :風吹けば名無し:2021/10/09(土) 11:35:38.67 ID:gXzoDNIR0.net
- ―図書室―
男(放課後…たまたまどんな本があるのか気になって)
男(そしたら彼女が残ってたから)
男(俺は図書室で受験勉強するようにした)
女「……」
男(中学の頃に話したの、覚えてるのかな)
男(声掛けたいけど……とてもな)
女「ねえ」
男(……!)ドキッ
男「どうしたの?」
- 2 :風吹けば名無し:2021/10/09(土) 11:35:45.10 ID:gXzoDNIR0.net
- 女「鍵…返すから」
女「もう時間」
男「あ、ああ…」
男「俺は見回りが来るまで残ってるよ。キリが悪くて」
男(馬鹿…! 一緒に帰ればいいだろ!)
女「そっか…」
女「……」
- 3 :風吹けば名無し:2021/10/09(土) 11:35:52.65 ID:gXzoDNIR0.net
- 女「中学、一緒だったよね?」
男「!」
男「そうだったかな…?」
女「……」
女「ごめん、変なこと聞いたよね?」
男「あ、いや…」
女「じゃあ、ね…」
- 4 :風吹けば名無し:2021/10/09(土) 11:36:00.01 ID:gXzoDNIR0.net
- 男(彼女とはそういう関係で…)
男(それはなんとなく放課後の自習という形で続いて…)
男(何もないまま、卒業式を迎えた)
男(それから…二十年が経った)
- 5 :風吹けば名無し:2021/10/09(土) 11:36:07.59 ID:gXzoDNIR0.net
- ガタンゴトン ガタンゴトン
女(35)「……」
女(景色が過ぎ去っていく)
女(久々の地元だった)
女(大学を出て都会で仕事をしていて…評価されて、役職をもらって、頑張ろうって…)
女(気が付けばこんな年齢だった)
女(一人暮らしの父が病気で倒れて…彼の介護が必要になり)
女(親戚の考え方もあって、私は退職して地元に帰ることになった)
- 6 :風吹けば名無し:2021/10/09(土) 11:36:18.50 ID:gXzoDNIR0.net
- 女「何も、残らなかったなあ…」
女「四年間必死に勉強して…いい企業に入って、十一年間真面目に働いて…」
女「なんなんだろ、人生って」
女(残業続きで、まともに休暇もなかった)
女(お金なんて、あっても仕方がないんだって)
女(それは私が余裕があるからいえることなのかもしれないけれど…)
女(でも結局介護をしながら私が老後まで生きられるほどのお金があるわけでもないし…)
女「はぁ……」
- 7 :風吹けば名無し:2021/10/09(土) 11:36:29.05 ID:gXzoDNIR0.net
- 女「暗いなぁ、私」ハハ
ふと、顔を上げたとき
男の人と目が合った
男(35)「……」
無精髭の、癖毛で、目の下に隈のある…
涙袋のある、疲れた顔の人
女「あ……」
少しのデジャヴの後に思い出す
高校生の頃、好きだった男の子だった
- 8 :風吹けば名無し:2021/10/09(土) 11:37:35.11 ID:gXzoDNIR0.net
- なんとなく電車に乗ったまま、降りるはずだった駅を逃し
彼が駅を降りるのを待った
ひと駅、ひと駅ごとに、何をしてるんだと我に返りそうで…
ようやく彼が降りたのは、初めて来る終点だった
女「○○君?」
男「……どちらさんで」
覚えていないようだ
いや、すぐに名前が出てきた私がおかしいのだ
- 9 :風吹けば名無し:2021/10/09(土) 11:37:42.27 ID:gXzoDNIR0.net
- 女「○○だよ」
少し首を傾げた後、
男「ああ」
小さく、曖昧に零す
変わっていない様子だった
- 10 :風吹けば名無し:2021/10/09(土) 11:37:52.80 ID:gXzoDNIR0.net
- 少し、高校の頃の当たり障りのない話をした
面白い先生がいたとか 文化祭が変わってたとか
もっとも彼は ほとんど覚えていないようで 生返事で
そういう浮世離れしたところも 昔のままだった
女「それで私ね…○○君のこと、好きだったんだ」
流れでそのまま口にしてしまった
意外と恥じらいはなかった
男「あ……」
驚いたように目を開いていた
- 11 :風吹けば名無し:2021/10/09(土) 11:38:03.28 ID:gXzoDNIR0.net
- 男「……」
急に投げかけられた言葉に 彼も驚いているようで
ぽかんと口を開けていて
女「あ…ごめんね、その」
男「そうだな…十年早く君に会いたかったな」
そう口にした彼は 既に私の顔を見ていなかった
ふらりと私の横を抜け ホームに向かっていく
- 12 :風吹けば名無し:2021/10/09(土) 11:38:10.67 ID:gXzoDNIR0.net
- 不思議な邂逅と 不思議な意気投合だった
女「好きです。愛してました」
小さくそう 彼の遠ざかる背に呟いた
- 13 :風吹けば名無し:2021/10/09(土) 11:38:21.42 ID:gXzoDNIR0.net
- ガタンゴトン ガタンゴトン
男(35)「……」
男(俺は小説でちょっとした賞を取って、大学をやめた)
男(でも、大して話題にもならず、売れず…)
男(以来、売れない小説をぽつぽつと出しては、後は三流雑誌のライターとして生きている)
男(真っ当に働かなきゃって、でも小説も諦められず…)
男(気づいたら大学をやめて十五年が経っていた)
男(もう…何をするにも手遅れだ)
男(身寄りも何もない、仕事も金もない、何ひとつ取り柄のない男が残った)
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