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なろう向けの短編書いたんやが評価してクレメンス

1 :風吹けば名無し:2021/08/18(水) 10:28:31.03 ID:LksGjxg40.net
私は橋だった。冷たく硬直して深い谷にかかっていた。こちらの端につま先を、向こうの端に両手を突き立てて、ぼろぼろ崩れていく土にしがみついていた。風にあおられ裾がはためく。下ではマスの棲む渓谷がとどろいていた。こんな山奥に、はたして誰が迷い込んでくるだろう。私はまだ地図にも記されていない橋なのだ――だから待っていた。待つ以外に何ができる。一度かけられたら最後、落下することなしには橋はどこまでも橋でしかない。

 ある日の夕方のことだ――もう何度もくり返してきたことだろう――私はのべつ同じことばかり考えていた。頭がぼんやりしていた。そんな夏の夕方だった。渓谷は音をたてて黒々と流れていた。このとき、足音を聞きつけた。やって来る、やって来る!――さあ、おまえ、準備しろ。おまえは手すりもない橋なのだ。旅人が頼りなげに渡りだしたら気をつけてやれ。もしもつまずいたら間髪入れず、山の神よろしく向こう岸まで放ってやれ。

 彼はやって来た。杖の先っぽの鉄の尖りで私をつっついた。その杖で私の上衣の裾を撫でつけた。さらに私のざんばら髪に杖を突き立て、おそらくキョロキョロあたりを見廻していたのだろうが、その間ずっと突き立てたまま放置していた。彼は山や谷のことを考えていたのだ。その思いによりそうように、私が思いをはせた矢先――ヒョイと両足で身体のまん中に跳びのってきた。私はおもわず悲鳴を上げた。誰だろう?子供か、幻影か、追い剥ぎか、自殺者か、誘惑者か、破壊者か?私は知りたかった。そこでいそいで寝返りを打った――なんと、橋が寝返りを打つ!とたんに落下した。私は一瞬のうちにバラバラになり、いつもは渓流の中からのどかに角を突き出している岩の尖りに刺しつらぬかれた。

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