【広島】帰ってきた城島二世【優勝】

風吹けば名無し

「今年も終わりか……」
　ミーティング中に呟きが漏れた。
　鉄壁の勝ちパを武器に優勝を目指す広島だったが、ここにきて正捕手會澤が離脱しチームの士気はがた落ちしていた。
扇の要を失い、代役捕手は代打の要坂倉か顎の長い磯村だけ。とてもではないが會澤の代役を果たせるとは思えなかった。今年ももう無理──そんな空気が漂った瞬間、乱暴に扉が開かれた。
「なんや、辛気くさい顔しおって！それが優勝目指すチームの顔か！？」突然現れ暴言を吐いた男に、一瞬驚いた顔を見せ相手が堂林でないと確認した磯村が敵意を剥き出しにした。

「何ですかあなたは！部外者が入ってこないでください！」しかし、噛みついた磯村に追随するかと思った先輩達は唖然とした様子で男を見上げていた。
「まさか…」「戻ってきたのか…？」「広陵の…」
ざわめく皆の中央へ、勝手知ったる顔でずかずかと男達に進んでいく。

「おうおうおう、ワイが浦和にいるうちに随分出世したみたいやな、ケムナ！そっちはちょっと痩せたんちゃうか、誠也！そんでもって、会えて光栄ですわ、長野さん！」
「…っ、お前、城島二世で一軍通算1本塁打の…！」

挨拶を受けて怪訝そうだった顔を一変させた長野に背を向け、男が佐藤へと振り向く。
「お前が坂倉か。話には聞いとるで。代打一番手やろ？勝負強いところはワイに似とるわ」
「あなたは……？」呆然とした顔で疑問を口にする坂倉に、ニッと笑った男が応える。

「覚えとき、ワイの名前は──」

　立てた右手を自らに向け、自信満々の笑みと共に告げられたその名は──

「──白濱や！ワイは白濱一軍通算1ホームランの白濱や！」言い切った瞬間、部屋を揺るがす大きな歓声があがった。今一番欲しかった、優勝への最後のピース。會澤の穴を埋められる捕手。
　不振に喘ぐ広島に、通算1本塁打の男が帰ってきた──