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明け方に中島敦『かめれおん日記』を読む

1 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:05:59 ID:IbJiY1VX0.net
🦎

2 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:06:43.01 ID:IbJiY1VX0.net
この続きから
https://swallow.5ch.net/test/read.cgi/livejupiter/1578600561/

3 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:07:32.12 ID:IbJiY1VX0.net
 實際、近頃の自分の生き方の、みじめさ、情なさ。

うぢゝゝと、内攻し、くすぶり、我と我が身を噛み、いぢけ果て、それで猶、うすつぺらな犬儒主義[シニシズム]だけは殘してゐる。こんな筈ではなかつたのだが、一體、どうして、又、何時頃から、こんな風になつて了つたのだらう? 

兎に角、氣が付いた時には、既にこんなヘンなものになつて了つてゐたのだ。いゝ、惡い、ではない。強ひて云へば困るのである。

ともかくも、自分は周圍の健康な人々と同じでない。

勿論、矜恃を以ていふのではない。その反對だ。不安と焦躁とを以ていふのである。

ものの感じ方、心の向ひ方が、どうも違ふ。みんなは現實の中に生きてゐる。俺はさうぢやない。かへるの卵のやうに寒天の中にくるまつてゐる。現實と自分との間を、寒天質の視力を屈折させるものが隔ててゐる。直接そとのものに觸れ感じることが出來ない。

4 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:07:47.29 ID:gf8MGmZg0.net
【画像】池袋行くとこういう『尻丸出し』の女がいるんだがwww
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【注目】「女湯に来る男児はエロい目で女を見る、男湯へ連れていって」和泉@izumionさんの漫画が話題に

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5 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:09:02 ID:IbJiY1VX0.net
はじめはそれを知的裝飾と考へて、困りながらも自惚れてゐたことがある。しかし、どうもさうではないらしい。もつと根本的な・先天的な・或る能力の缺如によるものらしい。それも一つの能力でなく、幾つかの能力の缺如である。

例へば、個人を個人たらしめる・最も普遍的な意味に於ての・功利主義が私には缺けてゐるやうだ。

又、ものを一つの系列――或る目的へと向つて排列された一つの順序――として理解する能力が私には無い。一つ一つをそれゞゝ獨立したものとして取上げて了ふ。

一日なら一日を、將來の或る計畫のための一日として考へることが出來ない。それ自身の獨立した價値をもつた一日でなければ承知できないのだ。

それから又、ものごと(自分自身をも含めて)の内側に直接はひつて行くことが出來ず、先づ外から、それに對して位置測定を試みる。全體に於ける其の位置、大きなものと對比した其の價値等を測つて見るだけで失望して了ひ、直接そのものの中にはひつて行けないのだ。

6 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:09:56.82 ID:IbJiY1VX0.net
sub specie aeternitatis に見る、といつたつて、別に哲人がる譯ではない。それ所か最も平凡な無常觀を以て見る――つまり、何事をも、(身の程知らずにも)永遠と對比して考へるために、先づその無意味さを感じて了ふのである。

實際的な對處法を講ずる前に、そのことの究極の無意味さを考へて(本當は感ずるのだ。理窟ではなく、アヽツマラナイナアといふ腹の底からの感じ)一切の努力を抛棄して了ふのだ。

 考へて見れば、大體、今迄の生き方が、まあ何といふ無意味な生き方だつたか。精神の統一集注を妨げることにばかり費された半生といつてもいい。

とにかく私は自分を眠らせ、自分の持つてゐるものを打消すことにばかり力を盡くして來たやうなものだ。

7 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:10:49 ID:IbPRYAQja.net
うーんこのなんj民の愚痴

8 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:12:11.52 ID:IbJiY1VX0.net
>シニシズム cynicism

犬儒主義,冷笑主義。徳こそ唯一の善であり,幸福は欲望から自由になることによってのみ達せられると説き,学問,芸術,贅沢,快楽を軽蔑して反文化的禁欲的生活を唱えた古代ギリシアのキュニコス派の立場。

転じて一般に,道徳,習慣などを無視し万事に冷笑的にふるまう態度をいう。

>sub specie aeternitatis(永遠の相の下に)

オランダの哲学者スピノザの言葉。永遠の相のもとに万物を認識するの意で,神のもとにおいて認識することを意味し,真の認識であるとされた。

9 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:13:37.57 ID:IbJiY1VX0.net
 曾て自分にも多少は感覺の良さがあつた時分には、私はそれにのみ奔ることを惧れて、自分の欲しもしない・無味な概念のかたまりを考へることによつて感覺を鈍くしようと力めた。

さうして、結局凡ての概念が灰色だと知つた時、又、自分が苦心の結果取除くことに成功したところのものが、如何に黄金なす緑色をなしてゐたかを悟つた時には、すでにそれを取返す術を失つてゐるのだ。

私が曾て、かなり確かな記憶力を有もつてゐた頃、私は之を輕蔑した。記憶力しか有もつてゐない人間は、足し算しか出來ない人間と同じだと云ひ、自分のこの力を撲滅しようとした。

之は隨分無理なことだつた。で、少くとも、之を利用することだけは避けるやうにした。

さて、人間生活の多くの貴い部分が、最も基礎的な意味に於て精神の此の能力に負うてゐることを、身を以て悟るやうになつた今となつては、はや(種々な藥品の過度の吸入や服用その他によつて)自分にそれが失はれてゐるのだ。

10 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:14:46.97 ID:IbJiY1VX0.net
 今でもさうだが、以前から私は、夜、床に就いてから容易に睡れない。之は主に、この十年間一晩として服用しないでは濟まない喘息の鎭靜劑のせゐなのだが、結局睡眠の時間は二時間か三時間位のもので、却つて、晝間は一日中ボウツとしてゐる。

床に就いてから眼が冴えてくるのに、私はそれでも無理に眠らなければいけないと考へて、恐らく私の一日中で一番頭のはつきりしてゐるに違ひない數時間を、眠らうとする消極的な下くだらぬ努力のために費して了ふ。

11 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:16:48 ID:IbJiY1VX0.net
本當はさういふ時こそ、色々な思想の萌芽といつてもいゝやうなものが、どんゝゝ湧いて來るやうな氣がするのだ。

しかし、そんなものに就いて思考を集注し出したら一晩中興奮のために眠れないぞ、さうすると又、明日は發作だぞ、と、私は躍氣になつて、さうした斷片的な思惟の芽を揉み消して行く。

全く私はどれ程の多くの思索の種子を寢床の闇の中でむざゝゝと躪にじり潰して了つたことか。

勿論、私は思想家でも科學者でもないから、私のひよいゝゝと浮かんで來る思ひつきや斷片的な考へが皆優れたものだつたらうなどといふのではない。
けれども初めは極く詰まらないものであつても、後の發展によつては、案外面白いものとなり得ることがあるのは、物質界でも精神界でも屡々見られるのだ。

闇の中で私に慘殺された無數の思ひつき(それらは、高く風に飛ぶ無數の蒲公英の種子のやうに、闇の中に舞ひ散つて、再び歸つて來ない)の中には、さうした類のものだつて多少は交じつてゐたらうと考へるのは、自惚に過ぎるだらうか?

12 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:17:36.28 ID:IbJiY1VX0.net
 さて、數年の間斯うして、私の精神が溌剌として來ようとする時には、それを眠らせようと力め、それが眠く朦朧としてゐる時にのみ、それを働かせようとした。いや、精神をば全然働かせまいと力めたのだ。

(何の爲に? 身體の爲に。それで身體はよくなつたか? どうして、どうして。少しもよくなんかなりはしない。)

私はこの馬鹿げた企てに成功した。本當の睡眠も本當の覺醒も私からは失はれた。私の精神はもはや再び働く力を失ひ、完全に眠り・淀み・腐つた。精神の罐詰、腐つた罐詰、木乃伊、化石。

 之以上完全な輝かしい成功があらうか。

13 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:18:25.86 ID:KNgHQPn1M.net
うんちしときますね💩

14 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:18:43.92 ID:IbJiY1VX0.net
 昨夜就寢する頃から少し胸苦しかつたが、夜半果して例の發作に襲はれて、起上る。アドレナリン一本をうち、朝迄床上に坐つてゐる。

呼吸困難は稍々をさまつたが、頭痛甚だし。朝になつて未だ不安なので、エフェドリン八錠服用。朝食は攝らず。息苦しきため横臥する能はず。終日椅子に掛け机に凭り、カメレオンの籠を前に、頬杖をついて眺める。

 カメレオンも元氣なし。鳥の止り木にとまり、小さな眼孔からぢつとこちらを見てゐる。動かず。瞑想者の風あり。尾の捲き方が面白い。

木をつかんでゐるゆびは、前三本、後二本。體色は餘り變化しないやうだ。全く異つた環境に連れ込まれたために、之に應ずる色素の準備がないのか?

 眺めてゐるうちに、ものが段々と、sub specie chameleonis に見えて來さうだ。人間としては常識として通つてゐることが、一つ一つ不可思議な疑はしいことに思はれて來る。頭痛は依然止まず。おほむね鈍痛だが、時にヅキヅキと劇しくなる。

15 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:19:30.29 ID:IbJiY1VX0.net
 頭痛の合間にきれゞゝにうかぶ斷想。

 俺といふものは、俺が考へてゐる程、俺ではない。俺の代りに習慣や環境やが行動してゐるのだ。
之に、遺傳とか、人類といふ生物の一般的習性とかいふことを考へると、俺といふ特殊なものはなくなつて了ひさうだ。

之は云ふ迄もないことなのだが、しかし普通沒我的に行動する場合、こんな事を意識してゐる者は無い。所が私のやうに、全力を傾注する仕事を有もたない人間には、この事が何時も意識されて仕方がない。しまひには何が何やら解らなくなつて來る。

16 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:19:39.46 ID:gGxcjDMId.net
昼休みに建ててや

17 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:20:28.64 ID:IbJiY1VX0.net
 俺といふものは、俺を組立てゝゐる物質的な要素(諸道具立)と、それをあやつるあるものとで出來上つてゐる器械人形のやうに考へられて仕方がない。

この間、欠伸をしかけて、ふと、この動作も、俺のあやつり手の操作のやうに感じ、ギヨツとして伸ばしかけた手を下した。

18 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:21:15.00 ID:IbJiY1VX0.net
>>16
ワイも昼休みには飯を食わなあかんのやで

19 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:22:38.21 ID:IbJiY1VX0.net
 一月程前、自分の體内の諸器關の一つ一つに就いて、(身體模型圖や動物解剖の時のことなどを思ひ浮かべながら)その所在のあたりを押して見ては、其の大きさ、形、色、濕り工合、柔かさ、などを、目をつぶつて想像して見た。

以前だつて斯ういふ經驗が無いわけではなかつたが、それは併し、いはゞ、内臟一般、胃一般、腸一般を自分の身體のあるべき場所に想像して見たゞけであつて、頗る抽象的な想像の仕方だつた。

しかし此の時は、何といふか、直接に、私といふ個人を形成してゐる・私の胃、私の腸、私の肺(いはゞ、個性をもつた其等の器關)を、はつきりと其の色、潤ひ、觸感を以て、その働いてゐる姿のまゝに考へて見た。

(灰色のぶよゝゝと弛んだ袋や、醜い管や、グロテスクなポンプなど。)

それも今迄になく、かなり長い間――殆ど半日――續けた。すると、私といふ人間の肉體を組立ててゐる各部分に注意が行き亙るにつれ、次第に、私といふ人間の所在が判らなくなつて來た。俺は一體何處にある? 

20 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:23:25.48 ID:IbPRYAQja.net
文学とかいうなんJ民並みの愚痴をもっともらしくこねくり回した何か
こねくりまわすのが才能なんやろうけど

21 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:23:25.63 ID:IbJiY1VX0.net
之は何も、私が大腦の生理に詳しくないから、又、自意識に就いての考察を知らないから、こんな幼稚な疑問が出て來た譯ではなからう。もつと遙かに肉體的な(全身的な)疑惑なのだ。

 その日以來こんな想像に耽るやうになり、それが癖になつて、何かに紛れてゐる時のほかは、自分の體内の器關共の存在を生々しく意識するやうになつて來た。どうも不健康な習慣だと思ふが、どうにもならない。

一體、醫者は斯ういふ經驗を有つだらうか? 彼等は自分達の肉體に就いても、患者等のそれと同樣に考へてゐるだけであつて、自分の個性の形成に與る所の自分の胃、自分の肺を、何時も自分の皮膚の下に意識してゐる譯ではないのではなからうか。

22 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:24:38 ID:IbJiY1VX0.net
 身體を二つに切斷されると、直ぐに、切られた各々の部分が互ひに鬪爭を始める蟲があるさうだが、自分もそんな蟲になつたやうな氣がする。

といふよりも、未だ切られない中から、身體中が幾つもに分れて爭ひを始めるのだ。外に向つて行く對象が無い時には、我と自らを噛み、さいなむより、仕方がないのだ。

23 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:25:28.67 ID:IbJiY1VX0.net
 私が何事かに就いて豫想をする時には、何時も最惡の場合を考へる。それには、實際の結果が豫想より良かつた時にホツとして卑小な嬉しさを感じようといふ、極めて小心な策略もあるにはあるやうだ。

私が人を訪ねようとすると、私は先づ彼が留守である場合を考へ、留守でも落膽しないやうにと自分に言ひきかせる。

それから、在宅であつても、何か取込中だとか他に來客がある場合のこと、又、彼が何かの理由で(假令、どんなに考へられない理由にしろ)自分に對して好い顏を見せないであらう場合、その他色々な思はしくない場合を想定して、
さういふ場合の方が好都合な場合よりもより多くあり得ることに思ひ込み、さうして、さういふ場合でも決して落膽せぬやうに自分を納得させてから、出掛けるのである。

24 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:26:34.24 ID:IbJiY1VX0.net
 何事に就いても之と同樣で、竟つひには、失望しないために、初めから希望を有つまいと決心するやうになつた。

落膽しないために初めから慾望をもたず、成功しないであらうとの豫見から、
てんで努力をしようとせず、辱しめを受けたり氣まづい思ひをし度くないために人中へ出まいとし、自分が頼まれた場合の困惑を誇大して類推しては、自分から他人にものを依頼することが全然できなくなつて了つた。

外へ向つて展かれた器關を凡て閉ぢ、まるで掘上げられた冬の球根類のやうにならうとした。それに觸れると、どのやうな外からの愛情も、途端に冷たい氷滴となつて凍りつくやうな・石とならうと私は思つた。

25 :風吹けば名無し:2020/01/10(金) 06:27:47.60 ID:IbJiY1VX0.net
>>20
ワイもそう思うがこの文学を読んで共感しない人間が何割くらいいるのか理解できない人間が何割かでもいるのかって思うわ

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