村田「どうすりゃいいんだ・・・」

風吹けば名無し

単身赴任先、栃木でで迎えた支配下登録期限の7月31日
前田敦子が結婚、男・村田の話題も勢いを見せず惨敗だった
男・村田に響く引退の2文字、どこからか聞こえる「素行が悪い」の声
無言でスーパーの半額セールを見て回る中、かつての本塁打王男・村田は独りスーパーで泣いていた
WBCで手にした栄冠、喜び、感動、そして何より野球が出来る喜び・・・
それを今この時を持って得ることは完全に不可能となった
「どうすりゃいいんだ・・・」男・村田は悔し涙を流し続けた
どれくらい経ったろうか、男・村田ははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たい冷凍マグロの感覚が現実に引き戻した
「やれやれ、帰って夕飯の仕度をしなくちゃな」男・村田は苦笑しながら呟いた
立ち上がって伸びをした時、男・村田はふと気付いた

「あれ・・・？契約がある・・・？」
ベンチから飛び出した男・村田が目にしたのは、外野席まで埋めつくさんばかりの観客だった
千切れそうなほどに旗が振られ、地鳴りのようにベイスターズの応援歌が響いていた
どういうことか分からずに呆然とする男・村田の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた
「ウゴ・ケデブ、守備練習だ、早く行くぞ」声の方に振り返った男・村田は目を疑った
「よ・・・吉村？」　「なんだケデブ、居眠りでもしてたのか？」
「う・・・内川？SBに移籍したんじゃ」　「なんだ、ケデブかってに内川を移籍させやがって」
「三浦さん！？」　男・村田は半分パニックになりながらスコアボードを見上げた
１番：石川　２番：金城　３番：内川　４番：男・村田　５番：吉村　６番：ビグビー　７番：仁志　８番：相川　９番：三浦
暫時、唖然としていた男・村田だったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった
「勝てない・・・でも契約があるんだ！」
筒香からグラブを受け取り、グラウンドへ全力疾走する男・村田、その目に光る涙は冷たい夕飯とは無縁のものだった・・・

翌日、業務用冷凍庫で冷たくなっている男・村田が発見され、吉村と内川はダイエーで静かに息を引き取った