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あの日、彼女は来なかった。

1 :風吹けば名無し:2021/09/27(月) 02:03:17.53 ID:e43J86Cv0.net
あの日、待てど暮らせど、彼女は来なかった。

2 :風吹けば名無し:2021/09/27(月) 02:03:31.67 ID:e43J86Cv0.net
かれこれ一時間はこうしてじっと座っている。寒空の下、自分でも何が楽しくてこうしているのか分からない。それでも僕は馬鹿だから、その忍耐をどこか幸せに感じていた。何も知らないから、青春を勘違いしていたのだ。
「待ち合わせに遅れるのがいい女」
なんて標語に憤ったのはいつ頃のことだったろう。こうして振り返ってみれば、何も間違っていない。寧ろ僕は、そのいい例になっていたようである。

3 :風吹けば名無し:2021/09/27(月) 02:03:57.49 ID:e43J86Cv0.net
隣町の夜の駅、そのベンチに座り、幾つも電車を見送る。急行が通り過ぎる度、冷たい風が運ばれてきて、強烈に頬を打った。それでも急行と交互に来る各駅列車に毎度希望を抱き、通過列車の走る轟音が遠のく度に、少し期待でワクワクしていた。

4 :風吹けば名無し:2021/09/27(月) 02:04:15.37 ID:e43J86Cv0.net
反対側のホームに、丁度降車してきた、笑顔溢れる男女が居る。楽しそうに二人腕を組んで、改札への階段を下って行った。
ぼんやり見届けて、もう暫く待つことに決めた。

5 :風吹けば名無し:2021/09/27(月) 02:04:34.63 ID:e43J86Cv0.net
時間が経つと、電車一本の間隔も広くなってきて、静寂の中じっと待つ時間が長くなった。とにかく寒い。少年のように、滑稽にもぐっと握りしめた掌を、開くこともままならない程に凍える。
たまに出るくしゃみが轟いて、プラットホームによく響く。静かな夜にやっと聴こえた音だったから、悪い気もしなかった。馬鹿もここまで来ると、風邪を引いても気付かなそうだから、却っていいのかもしれない。

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