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明け方に山月記を読み返す🌕⛰🐅

1 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:01:40.29 ID:1CiX8SU2d.net
🐯・・・

2 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:01:57.31 ID:1CiX8SU2d.net
山月記  中島敦

3 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:02:55.01 ID:1CiX8SU2d.net
 隴西の李徴は博學才穎[えい]、天寶の末年、若くして名を虎榜[こぼう]に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃む所頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかつた。

いくばくもなく官を退いた後は、故山、虢略に歸臥し、人と交を絶つて、ひたすら詩作に耽つた。下吏となつて長く膝を俗惡な大官の前に屈するよりは、詩家としての名を死後百年に遺さうとしたのである。

しかし、文名は容易に揚らず、生活は日を逐うて苦しくなる。李徴は漸く焦躁に驅られて來た。

4 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:03:24.90 ID:1CiX8SU2d.net
この頃から其の容貌も峭刻となり、肉落ち骨秀で、眼光のみ徒らに烱々として、曾て進士に登第した頃の豐頬の美少年の俤は、何處に求めやうもない。

數年の後、貧窮に堪へず、妻子の衣食のために遂に節を屈して、再び東へ赴き、一地方官吏の職を奉ずることになつた。

一方、之は、己の詩業に半ば絶望したためでもある。曾ての同輩は既に遙か高位に進み、彼が昔、鈍物として齒牙にもかけなかつた其の連中の下命を拜さねばならぬことが、往年の儁[しゆん]才李徴の自尊心を如何に傷つけたかは、想像に難くない。

彼は怏々として樂しまず、狂悖[はい]の性は愈々抑へ難くなつた。

5 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:03:45.81 ID:1CiX8SU2d.net
一年の後、公用で旅に出、汝水のほとりに宿つた時、遂に發狂した。

或夜半、急に顏色を變へて寢床から起上ると、何か譯の分らぬことを叫びつつ其の儘下にとび下りて、闇の中へ駈出した。

彼は二度と戻つて來なかつた。附近の山野を搜索しても、何の手掛りもない。その後李徴がどうなつたかを知る者は、誰もなかつた。

6 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:04:16.55 ID:1CiX8SU2d.net
 翌年、監察御史、陳郡の袁傪といふ者、勅命を奉じて嶺南に使し、途に商於の地に宿つた。

次の朝未だ暗い中に出發しようとした所、驛吏が言ふことに、これから先の道に人喰虎が出る故、旅人は白晝でなければ、通れない。今はまだ朝が早いから、今少し待たれたが宜しいでせうと。

袁傪は、しかし、供廻りの多勢なのを恃み、驛吏の言葉を斥けて、出發した。

7 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:04:44.69 ID:1CiX8SU2d.net
殘月の光をたよりに林中の草地を通つて行つた時、果して一匹の猛虎が叢の中から躍り出た。

虎は、あはや袁傪に躍りかかるかと見えたが、忽ち身を飜して、元の叢に隱れた。叢の中から人間の聲で「あぶない所だつた」と繰返し呟くのが聞えた。

其の聲に袁傪は聞き憶えがあつた。驚懼の中にも、彼は咄嗟に思ひあたつて、叫んだ。「其の聲は、我が友、李徴子ではないか?」

袁傪は李徴と同年に進士の第に登り、友人の少かつた李徴にとつては、最も親しい友であつた。温和な袁傪の性格が、峻峭な李徴の性情と衝突しなかつたためであらう。

 叢の中からは、暫く返辭が無かつた。しのび泣きかと思はれる微かな聲が時々洩れるばかりである。ややあつて、低い聲が答へた。「如何にも自分は隴西の李徴である」と。

8 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:05:08.98 ID:1CiX8SU2d.net
 袁傪は恐怖を忘れ、馬から下りて叢に近づき、懷かしげに久濶を叙した。そして、何故叢から出て來ないのかと問うた。

李徴の聲が答へて言ふ。自分は今や異類の身となつてゐる。どうして、おめゝゝと故人の前にあさましい姿をさらせようか。且つ又、自分が姿を現せば、必ず君に畏怖嫌厭の情を起させるに決つてゐるからだ。

しかし、今、圖らずも故人に遇ふことを得て、愧赧[きたん]の念をも忘れる程に懷かしい。どうか、ほんの暫くでいいから、我が醜惡な今の外形を厭はず、曾て君の友李徴であつた此の自分と話を交して呉れないだらうか。

9 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:05:21.34 ID:FnlEZKwE0.net
このスレまだやってるのか

10 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:05:32.06 ID:1CiX8SU2d.net
 後で考へれば不思議だつたが、其の時、袁傪は、この超自然の怪異を、實に素直に受容れて、少しも怪まうとしなかつた。彼は部下に命じて行列の進行を停め、自分は叢の傍に立つて、見えざる聲と對談した。

都の噂、舊友の消息、袁傪が現在の地位、それに對する李徴の祝辭。

青年時代に親しかつた者同志の、あの隔てのない語調で、それ等が語られた後、袁傪は、李徴がどうして今の身となるに至つたかを訊ねた。草中の聲は次のやうに語つた。

11 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:06:09.30 ID:1CiX8SU2d.net
 今から一年程前、自分が旅に出て汝水のほとりに泊つた夜のこと、一睡してから、ふと眼を覺ますと、戸外で誰かが我が名を呼んでゐる。聲に應じて外へ出て見ると、聲は闇の中から頻りに自分を招く。覺えず、自分は聲を追うて走り出した。

無我夢中で駈けて行く中に、何時しか途は山林に入り、しかも、知らぬ間に自分は左右の手で地を攫んで走つてゐた。何か身體中に力が充ち滿ちたやうな感じで、輕々と岩石を跳び越えて行つた。

氣が付くと、手先や肱のあたりに毛を生じてゐるらしい。

12 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:06:44.98 ID:1CiX8SU2d.net
少し明るくなつてから、谷川に臨んで姿を映して見ると、既に虎となつてゐた。

自分は初め眼を信じなかつた。次に、之は夢に違ひないと考へた。夢の中で、之は夢だぞと知つてゐるやうな夢を、自分はそれ迄に見たことがあつたから。

どうしても夢でないと悟らねばならなかつた時、自分は茫然とした。さうして、懼れた。全く、どんな事でも起り得るのだと思うて、深く懼れた。

しかし、何故こんな事になつたのだらう。分らぬ。全く何事も我々には判らぬ。理由も分らずに押付けられたものを大人しく受取つて、理由も分らずに生きて行くのが、我々生きもののさだめだ。

自分は直ぐに死を想うた。しかし、其の時、眼の前を一匹の兎が駈け過ぎるのを見た途端に、自分の中の人間は忽ち姿を消した。

再び自分の中の人間が目を覺ました時、自分の口は兎の血に塗れ、あたりには兎の毛が散らばつてゐた。之が虎としての最初の經驗であつた。

13 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:07:14.13 ID:1CiX8SU2d.net
 それ以來今迄にどんな所行をし續けて來たか、それは到底語るに忍びない。

ただ、一日の中に必ず數時間は、人間の心が還つて來る。さういふ時には、曾ての日と同じく、人語も操れれば、複雜な思考にも堪へ得るし、經書の章句をも誦ずることも出來る。その人間の心で、虎としての己の殘虐な行のあとを見、己の運命をふりかへる時が、最も情なく、恐しく、憤ろしい。

しかし、その、人間にかへる數時間も、日を經るに從つて次第に短くなつて行く。

今迄は、どうして虎などになつたかと怪しんでゐたのに、此の間ひよいと氣が付いて見たら、己れはどうして以前、人間だつたのかと考へてゐた。

14 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:07:18.41 ID:v0i17sPBr.net
知ってるけど読んどるで🥺

15 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:07:47.70 ID:KAE6J3Eq0.net
これが有名な山月記ガイジか僥倖僥倖

16 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:08:03.05 ID:1CiX8SU2d.net
之は恐しいことだ。

今少し經てば、己れの中の人間の心は、獸としての習慣の中にすつかり埋れて消えて了ふだらう。恰度、古い宮殿の礎が次第に土砂に埋沒するやうに。さうすれば、しまひに己れは自分の過去を忘れ果て、一匹の虎として狂ひ廻り、今日の樣に途で君と出會つても故人と認めることなく、君を裂き喰うて何の悔も感じないだらう。

一體、獸でも人間でも、もとは何か他のものだつたんだらう。初めはそれを憶えてゐたが、次第に忘れて了ひ、初めから今の形のものだつたと思ひ込んでゐるのではないか? 

いや、そんな事はどうでもいい。

己れの中の人間の心がすつかり消えて了へば、恐らく、その方が、己れはしあはせになれるだらう。だのに、己れの中の人間は、その事を、此の上なく恐しく感じてゐるのだ。

ああ、全く、どんなに、恐しく、哀しく、切なく思つてゐるだらう! 己れが人間だつた記憶のなくなることを。

この氣持は誰にも分らない。誰にも分らない。己れと同じ身の上に成つた者でなければ。

17 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:08:19.00 ID:1CiX8SU2d.net
所で、さうだ。己れがすつかり人間でなくなつて了ふ前に、一つ頼んで置き度いことがある。

18 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:08:44.38 ID:1CiX8SU2d.net
 袁傪はじめ一行は、息をのんで、叢中の聲の語る不思議に聞入つてゐた。聲は續けて言ふ。

 他でもない。自分は元來詩人として名を成す積りでゐた。しかも、業未だ成らざるに、この運命に立至つた。曾て作る所の詩數百篇、固より、まだ世に行はれてをらぬ。遺稿の所在も最早判らなくなつてゐよう。

所で、その中、今も尚記誦せるものが數十ある。之を我が爲に傳録して戴き度いのだ。

何も、之に仍つて一人前の詩人面をしたいのではない。作の巧拙は知らず、とにかく、産を破り心を狂はせて迄自分が生涯それに執著した所のものを、一部なりとも後代に傳へないでは、死んでも死に切れないのだ。

19 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:09:18.88 ID:1CiX8SU2d.net
>>15
山月記ガイジとかより山月記の文章を見返す方が楽しいで

20 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:09:38.83 ID:1CiX8SU2d.net
 袁傪は部下に命じ、筆を執つて叢中の聲に隨つて書きとらせた。李徴の聲は叢の中から朗々と響いた。

長短凡そ三十篇、格調高雅、意趣卓逸、一讀して作者の才の非凡を思はせるものばかりである。

しかし、袁傪は感嘆しながらも漠然と次の樣に感じてゐた。成程、作者の素質が第一流に屬するものであることは疑ひない。しかし、この儘では、第一流の作品となるのには、何處か(非常に微妙な點に於て)缺ける所があるのではないか、と。

21 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:10:02.59 ID:1CiX8SU2d.net
 舊詩を吐き終つた李徴の聲は、突然調子を變へ、自らを嘲るが如くに言つた。

 羞しいことだが、今でも、こんなあさましい身と成り果てた今でも、己れは、己れの詩集が長安風流人士の机の上に置かれてゐる樣を、夢に見ることがあるのだ。

岩窟の中に横たはつて見る夢にだよ。嗤つて呉れ。詩人に成りそこなつて虎になつた哀れな男を。(袁傪は昔の青年李徴の自嘲癖を思出しながら、哀しく聞いてゐた。)

さうだ。お笑ひ草ついでに、今の懷を即席の詩に述べて見ようか。この虎の中に、まだ、曾ての李徴が生きてゐるしるしに。

22 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:10:16.47 ID:1CiX8SU2d.net
 袁傪は又下吏に命じて之を書きとらせた。その詩に言ふ。

偶因狂疾成殊類  災患相仍不可逃
今日爪牙誰敢敵  當時聲跡共相高
我爲異物蓬茅下  君已乘軺氣勢豪
此夕溪山對明月  不成長嘯但成嘷

23 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:10:48.20 ID:1CiX8SU2d.net
 時に、殘月、光冷やかに、白露は地に滋く、樹間を渡る冷風は既に曉の近きを告げてゐた。人々は最早、事の奇異を忘れ、肅然として、この詩人の薄倖を嘆じた。李徴の聲は再び續ける。

 何故こんな運命になつたか判らぬと、先刻は言つたが、しかし、考へやうに依れば、思ひ當ることが全然ないでもない。

人間であつた時、己れは努めて人との交を避けた。人々は己れを倨傲だ、尊大だといつた。實は、それが殆ど羞恥心に近いものであることを、人々は知らなかつた。

勿論、曾ての郷黨の秀才だつた自分に、自尊心が無かつたとは云はない。しかし、それは臆病な自尊心とでもいふべきものであつた。

24 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:11:19.49 ID:1CiX8SU2d.net
己れは詩によつて名を成さうと思ひながら、進んで師に就いたり、求めて詩友と交つて切磋琢磨に努めたりすることをしなかつた。

かといつて、又、己れは俗物の間に伍することも潔しとしなかつた。共に、我が臆病な自尊心と、尊大な羞恥心との所爲である。

己の珠に非ざることを惧れるが故に、敢て刻苦して磨かうともせず、又、己の珠なるべきを半ば信ずるが故に、碌々として瓦に伍することも出來なかつた。

己れは次第に世と離れ、人と遠ざかり、憤悶と慙恚とによつて益々己の内なる臆病な自尊心を飼ひふとらせる結果になつた。

25 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:11:37.40 ID:S2si6Of70.net
完走してるの見たことない定期

26 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:11:42.52 ID:1CiX8SU2d.net
人間は誰でも猛獸使であり、その猛獸に當るのが、各人の性情だといふ。

己れの場合、この尊大な羞恥心が猛獸だつた。虎だつたのだ。
之が己を損ひ、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、果ては、己の外形を斯くの如く、内心にふさはしいものに變へて了つたのだ。

27 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:12:04.09 ID:laZx8gY30.net
支援

28 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:12:18.51 ID:K9QEnPO+d.net
いや読んでないやんコピペしてるだけやん

29 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:12:23.14 ID:1CiX8SU2d.net
今思へば、全く、己れは、己れの有つてゐた僅かばかりの才能を空費して了つた譯だ。

人生は何事をも爲さぬには餘りに長いが、何事かを爲すには餘りに短いなどと口先ばかりの警句を弄しながら、事實は、才能の不足を暴露するかも知れないとの卑怯な危惧と、刻苦を厭ふ怠惰とが己れの凡てだつたのだ。

己れよりも遙かに乏しい才能でありながら、それを專一に磨いたがために、堂々たる詩家となつた者が幾らでもゐるのだ。

虎と成り果てた今、己れは漸くそれに氣が付いた。それを思ふと、己れは今も胸を灼かれるやうな悔を感じる。

30 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:12:35.93 ID:BHvCHfYq0.net
漢詩まではいこう
というか弟子が読みたい

31 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:12:53.19 ID:1CiX8SU2d.net
己れには最早人間としての生活は出來ない。たとへ、今、己れが頭の中で、どんな優れた詩を作つたにした所で、どういふ手段で發表できよう。

まして、己れの頭は日毎に虎に近づいて行く。どうすればいいのだ。己れの空費された過去は? 己れは堪らなくなる。

さういふ時、己れは、向うの山の頂の巖に上り、空谷に向つて吼える。この胸を灼く悲しみを誰かに訴へたいのだ。

32 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:13:01.91 ID:UwSz77Eu0.net
なんか真夏の朝は違うんだよね

33 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:13:19.63 ID:1CiX8SU2d.net
>>25
またこれそんなに立っとるんか

34 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:14:02.90 ID:1CiX8SU2d.net
己れは昨夕も、彼處で月に向つて咆えた。誰かに此の苦しみが分つて貰へないかと。

しかし、獸どもは己れの聲を聞いて、唯、懼れ、ひれ伏すばかり。山も樹も月も露も、一匹の虎が怒り狂つて、哮つてゐるとしか考へない。天に躍り地に伏して嘆いても、誰一人己れの氣持を分つて呉れる者はない。

恰度、人間だつた頃、己れの傷つき易い内心を誰も理解して呉れなかつたやうに。己れの毛皮の濡れたのは、夜露のためばかりではない。

35 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:14:40.78 ID:1CiX8SU2d.net
 漸く四邊[あたり]の暗さが薄らいで來た。木の間を傳つて、何處からか、曉角が哀しげに響き始めた。

 最早、別れを告げねばならぬ。醉はねばならぬ時が、(虎に還らねばならぬ時が)近づいたから、と、李徴の聲が言つた。

だが、お別れする前にもう一つ頼みがある。それは我が妻子のことだ。

彼等は未だ虢略にゐる。固より、己れの運命に就いては知る筈がない。君が南から歸つたら、己れは既に死んだと彼等に告げて貰へないだらうか。

決して今日のことだけは明かさないで欲しい。

厚かましいお願だが、彼等の孤弱を憐れんで、今後とも道塗に飢凍することのないやうにはからつて戴けるならば、自分にとつて、恩倖、之に過ぎたるは莫い。

36 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:14:47.61 ID:cJPcNsAS0.net
🙎‍♂「その声は、我が友、李徴子ではないか?」

🐯「如何にも自分は隴西の李徴である」

ここだけでいいよね

37 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:14:59.22 ID:clxxrwhS0.net
久々に見た

38 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:15:07.31 ID:1CiX8SU2d.net
 言終つて、叢中から慟哭の聲が聞えた。袁傪も亦涙を泛べ、欣んで李徴の意に副ひ度い旨を答へた。李徴の聲は併し忽ち又先刻の自嘲的な調子に戻つて、言つた。

 本當は、先づ、この事の方を先にお願ひすべきだつたのだ、己れが人間だつたなら。飢ゑ凍えようとする妻子のことよりも、己の乏しい詩業の方を氣にかけてゐる樣な男だから、こんな獸に身を墮すのだ。

 さうして、附加へて言ふことに、袁傪が嶺南からの歸途には決して此の途を通らないで欲しい、其の時には自分が醉つてゐて故人を認めずに襲ひかかるかも知れないから。

又、今別れてから、前方百歩の所にある、あの丘に上つたら、此方を振りかへつて見て貰ひ度い。自分は今の姿をもう一度お目に掛けよう。勇に誇らうとしてではない。我が醜惡な姿を示して、以て、再び此處を過ぎて自分に會はうとの氣持を君に起させない爲であると。

39 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:15:52.29 ID:1CiX8SU2d.net
>>28
見とる人は知らんがワイは読んどる
李徴がもし先に家族のことから切り出してたらどうなるかとかや

40 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:16:08.27 ID:1CiX8SU2d.net
 袁傪は叢に向つて、懇ろに別れの言葉を述べ、馬に上つた。叢の中からは、又、堪へ得ざるが如き悲泣の聲が洩れた。袁傪も幾度か叢を振返りながら、涙の中に出發した。

41 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:16:24.89 ID:1CiX8SU2d.net
 一行が丘の上についた時、彼等は、言はれた通りに振返つて、先程の林間の草地を眺めた。忽ち、一匹の虎が草の茂みから道の上に躍り出たのを彼等は見た。

虎は、既に白く光を失つた月を仰いで、二聲三聲咆哮したかと思ふと、又、元の叢に躍り入つて、再び其の姿を見なかつた。

42 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:16:27.44 ID:jf4Z0Khn0.net
サンガツ

43 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:16:37.60 ID:1CiX8SU2d.net
(昭和17年2月發表)

44 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:16:50.79 ID:v0i17sPBr.net
初めて読んだ高校生の時も悲しい話やと思ったんやが
今読むともっと悲しい😢

45 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:17:10.48 ID:peLa9CCC0.net
懐かしい
このスレのお陰で中島敦読み直したわ

46 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:17:45.56 ID:1CiX8SU2d.net
>>30
ワイも弟子は好きやし読むけど貼るには1時間あっても足りないんや

>>32
その気持ちはわかるで日が昇るのが早すぎるし暑い

47 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:17:46.59 ID:KZBlDW650.net
おお完走したか

48 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:18:27.36 ID:f6+Jdq3Q0.net
久々に見た

49 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:19:26.76 ID:wI57W/Ag0.net
戦時中にこんな下らない駄文書いてたと思うと非国民だな
しかもなぜか舞台が中国

50 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:19:59.28 ID:1CiX8SU2d.net
>>44
日増しに人間でなくなっていくのにそれを受け入れられない李徴はどうすりゃええんやろなホンマにどうしようもないんやろか

51 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:20:34.17 ID:BHvCHfYq0.net
>>46
子路の最期の言葉が好きなんよね
中島敦は天才

52 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:20:37.09 ID:FBpPskcc0.net
久々に見た

53 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:21:38.73 ID:ZPq4s0COd.net
これ何年やってんの?

54 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:21:55.85 ID:OwYQFtCtd.net
ヒキニートワイ、山月記を読み改心する😭

55 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:22:04.25 ID:1CiX8SU2d.net
>>49

章魚木の下で  中島敦

56 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:22:13.80 ID:TaNSzOVp0.net
久々やな

57 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:22:35.06 ID:cRhCq9Mq0.net
マジかよタイガース最低だな

58 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:23:09.15 ID:1CiX8SU2d.net
 南洋群島の土人の間で仕事をしていた間は、内地の新聞も雑誌も一切目にしなかった。文学などというものも殆ど忘れていたらしい。

その中に戦争になった。文学に就ついて考えることは益々無くなって行った。数ヶ月してから東京へ出て来た。気候ばかりでなく、周囲の空気が一度に違ったので、大いに面喰った。

本屋の店頭に堆高く積まれた書物共を見て私は実際仰天した。久しぶりで文学作品を読むと流石に面白くはあったが、南洋呆けして粗雑になった私の頭には、稍々やや微妙に過ぎ難解に感じられることが無いではなかった。

この事は作品以外の批評や感想などに至って更に其の度を増した。文壇の事情に就いての予備知識が全然欠けていること、当然知っていなければならない幾つかの術語や合言葉を知らないこと、私が心理的にも論理的にも余りに大ザッパな単純な人間になり過ぎて了ったこと、之等これらがその原因のようである。

59 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:23:44.62 ID:z/3r48Nlr.net
短くて読みやすい

60 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:24:28.44 ID:1CiX8SU2d.net
併し、とにもかくにも其等の文章を通じて、文学をする者にとっての現在の問題というものが朧げながら判っては来た。

思えば自分は今迄章魚木[たこのき]の下で、時局と文学とに就いて全く何とノンビリした考え方しかしていなかったことかと我ながら驚いた。

ノンビリした考えどころではない、てんで何も考えなかったのだ。戦争は戦争、文学は文学。全然別のものと思い込んでいたのだ。

己に課せられた実務が目下の所第一の急務で、他は顧みる暇がない。稀に暇があった時にのみ些かは文字を連ねることもあったが、必ずしも文学作品という意識を以てではない。書くものの中に時局的色彩を盛ろうと考えたこともなく、まして、文学などというものが国家的目的に役立たせられ得るものとは考えもしなかった。

少くとも応用科学が戦争に役立つと同じ意味で文学が戦争に役立ち得るとは愚かにも思い及ばなかったので、此の際文学は忘れ去って唯当面の仕事を一心にやっていればいいのだと簡単に考えた。

61 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:25:35.63 ID:1CiX8SU2d.net
国民の一人として忠実に活きて行く中に、もし自分が文学者なら其の中に何か作品が自然に出来るだろう。

しかし出来なくても一向差支えない。

一人の人間が作家になろうとなるまいと、そんな事は此の際大した問題ではない。

其の程度のボンヤリした考えで東京へ出て来たものだから、種々な微妙複雑な問題の氾濫にすっかり吃驚[びつくり]したのである。成程、文学も戦争に役立ち得るのかと其の時始めて気が付いたのだから、随分迂闊な話だ。

62 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:25:44.87 ID:v0i17sPBr.net
>>50
聡明やったが精神病を発症した人や
鬱々としてる無職の人を李徴にしたんやないか
狂人になってまうか自死するかしかないんやろか

63 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:26:29.25 ID:1CiX8SU2d.net
しかし、文学者の学問や知識による文化啓蒙運動が役に立ったり、文学者の古典解説や報道文作製術が役に立ったりするのは、之は文学の効用といって良いものかどうか。

文学が其の効用を発揮するとすれば、それは、斯ういう時世に兎ともすれば見のがされ勝ちな我々の精神の外剛内柔性――或いは、気負い立った外面の下に隠された思考忌避性といったようなものへの、一種の防腐剤としてであろうかと思われるが、之もまだハッキリ言い切る勇気はない。

現在我々の味わいつつある感動が直ぐに其の儘作品の上に現れることを期待するのも些か性急に過ぎるように思われる。

64 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:27:15.61 ID:5CXIaVFY0.net
なんでトラになるんかわからん
もっとみみっちいもんになるやろ

65 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:27:30.07 ID:1CiX8SU2d.net
自己の作物の時局性の薄いことを憂えて取って付けた様な国策的色彩を施すのも少々可笑しい。

感動はあっても未だ文学的なものに迄醗酵しないし、古い題材では矢張何かしっくりせず、其の他種々の事情から現在が書きにくい時期だということは判る。だから、書けなければ書けないで、何も無理をして書かなくともいいのではないか。

(ここで私は再び南洋での元の考え方に戻って来る。)

作家という名前は返上して、戦時下の国民の一人として戦争遂行に必要な実務にたずさわればいいのではないか。

66 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:28:05.23 ID:1CiX8SU2d.net
>>62
発狂するまでは官職にあったやないか
発狂したら終わりなんか?

67 :おにぎり:2021/07/23(金) 05:28:35.97 ID:I1+B0ZZB0.net
虎は精神病んだ元人間なんか

68 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:28:47.44 ID:1CiX8SU2d.net
文学者の戦場は飽く迄書斎にあると唱える人が多い。現在も尚旺盛な創作熱にとり憑かれている人や、大いに自己の文学を以て御奉公し得る自信のある作家なら、充分にそれを主張する資格がある。

併し、全然書けなくなったり、自己の作品に不安を感じたりするような人迄が、今迄文学をやって来たからというそれだけの事実に引きずられて、無理に書斎に噛りついていることは無い。人手の足りない此の際、宜しく筆を捨てて何等かの実際的な仕事に就いた方が、文学の為にも国家の為にもなろうと思うのである。

69 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:29:02.36 ID:zIMDFlNrp.net
久しぶり過ぎるわ
生きとったんやな

70 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:29:35.85 ID:1CiX8SU2d.net
(実際は既に作家達は各々斯うした仕事に就いているのであって、私がそれを知らないだけかも知れない。それだったら何も言うことは無い。)

斯ういう粗い考え方は余りに文学を見縊ったように見えるだろうか。

私自身としては毛頭そんなつもりは無い。却って文学を高い所に置いているが故に、此の世界に於ける代用品の存在を許したくないだけのことである。

食料や衣服と違って代用品はいらない。出来なければ出来ないで、ほんものの出来る迄待つほかは無いと思う。だから、つい斯んなものの言い方になるのである。

71 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:30:06.47 ID:1CiX8SU2d.net
 章魚木島で暮していた時戦争と文学とを可笑しい程截然と区別していたのは、「自分が何か実際の役に立ちたい願い」と、「文学をポスター的実用に供したくない気持」とが頑固に素朴に対立していたからである。

章魚木の島から華の都へと出て来ても、此の傾向は容易に改まりそうもない。まだ南洋呆けがさめないのかも知れぬ。

72 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:31:23.13 ID:1CiX8SU2d.net
(昭和18年1月発表)

73 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:32:52.45 ID:1CiX8SU2d.net
>>67
虎は精神を病んだ元人間なのかもしれんけどほんまかは分からん
李徴という人間が精神を病んでいってたのは確かや
虎になってたとしても虎になったことが精神を病んだことと関係しとるのかも分からん

74 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:33:39.21 ID:cJPcNsAS0.net
原作やと不倫してたら相手の家族にバレたから腹いせに放火して焼き殺した罰で虎になったと聞いて同情心なくなったわ

75 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:34:03.42 ID:1CiX8SU2d.net
>>64
虎になっているというのが李徴にとって現実や虎になりたいと思ったわけでもないんや

76 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:36:26.50 ID:1CiX8SU2d.net
>>74
原作というよりアイデア元や
李徴と袁傪と虎になったことは踏襲しとるが未亡人と懇ろになって向こうの家と揉めて火を付けた李徴は詩人になることを志しとるうちに発狂した李徴とは無関係や

77 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:36:44.44 ID:kXiYT/ZI0.net
クソスレ定期
落とせ

78 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:38:10.70 ID:5CXIaVFY0.net
>>75
いや、なんでこの話書いた奴が変身するものにトラを選んだのか疑問なんや

79 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:38:27.80 ID:9/xJr5Rl0.net
ワイはすき
イッチから山月記愛を感じる

80 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:38:36.69 ID:1CiX8SU2d.net
虎になった李徴はすぐに死を想うたわけやがウサギが通りがかって人間としての意識は消えてもうた
人間としての意識がある時に自死はできるんやろか?

81 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:38:49.83 ID:guZ6yg7C0.net
なつかC
驕りを持つとあかんな

82 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:40:37.75 ID:1CiX8SU2d.net
>>78
山月記の素材元を辿っていくと最初は唐の時代の書物になるんやがそれの李徴は尊大で仕事辞めて再就職先探しとるうちに虎になるんや
中国での伝統的な虎のイメージが尊大で孤高で凶暴なものなんやないのか?

83 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:40:38.88 ID:v0i17sPBr.net
>>66
発狂(発症)したら自分が自分でなくなるんやろ
その自覚があるから戻った時にあるいは
今の自分を見て泣くんやと思うとった
そういうこと>>71やったんか

84 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:41:05.40 ID:guZ6yg7C0.net
高校でやったわ

85 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:42:29.52 ID:5CXIaVFY0.net
>>82
なるほどな

86 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:43:57.85 ID:5ty/qdHSa.net
久々に夜更しして久々に見たわ

87 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:44:14.55 ID:1CiX8SU2d.net
>>83
君の言うところの精神病を発症ってのが「遂に発狂した」ってところよな?その時点ではまだ虎になっとらんよな
つまりそっから自殺するか狂人か虎になるかしか李徴に道はなかったってことで合っとるか君が言いたいのは

88 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:46:33.05 ID:/yzLes+e0.net
山月記ガイジやんけ!

89 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:46:41.65 ID:1CiX8SU2d.net
それとも虎になったことも含めて精神病なんやろか

90 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:48:38.98 ID:CIAilKmcd.net
世界観が同じならなんJ民も結構虎になりそうやな

91 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:49:10.88 ID:guZ6yg7C0.net
ワイも虎になりかねんわ

92 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:51:20.02 ID:v0i17sPBr.net
>>87
狂人=虎で
人であるうちに自死するか
虎になってしまうか
だんだん虎である時間が長くなって泣いてる
んかとそんなふうに感じながら読んでた

93 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:51:30.44 ID:1CiX8SU2d.net
>>91
自分の中の猛獣を飼い慣らしとけば大丈夫や
自分の積み重ねてること結果自分が発狂しそうなパターンを想像して回避せな

94 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:52:02.52 ID:kwdMvmcy0.net
杜甫と李白どっちやっけ

95 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:52:16.97 ID:9WQUAVLJa.net
ポエマーってメンタル弱いと虎になっちゃうんですね

96 :風吹けば名無し:2021/07/23(金) 05:53:53.04 ID:1CiX8SU2d.net
>>92
「人であるうちに」ってのは思考が人であるうちにってことよな
ワイはその状態から自死を選べるんやろかって思ったんや
ウサギ見ただけで消える人間の思考やし虎の本能で自死を拒むかもしれんなって

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