山本由伸(23歳、投手5冠、沢村賞、五輪金メダリスト)「まだまだオリックスでやり残した事がある」

風吹けば名無し

本拠地、ほっともっとフィールド神戸で迎えたヤクルト戦
先発山本が大量失点、打線も勢いを見せず惨敗だった
スタジアムに響くファンのため息、どこからか聞こえる「来年は７０敗だな」の声
無言で帰り始める選手達の中、今年の沢村賞山本は独りベンチで泣いていた。
五輪で手にした栄冠、喜び、感動、そして何より信頼できるチームメイト・・・
それを今のオリックスで得ることは殆ど不可能と言ってよかった
「どうすりゃいいんだ・・・」山本は悔し涙を流し続けた
どれくらい経ったろうか、山本ははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たいベンチの感覚が現実に引き戻した
「やれやれ、帰ってトレーニングをしなくちゃな」山本は苦笑しながら呟いた
立ち上がって伸びをした時、山本はふと気付いた

「あれ・・・？お客さんがいる・・・？」
ベンチから飛び出した山本が目にしたのは、外野席まで埋めつくさんばかりの観客だった
千切れそうなほどに旗が振られ、地鳴りのようにオリックスの応援歌が響いていた
どういうことか分からずに呆然とする山本の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた
「ヨシノブ、投球練習だ、早く行くぞ」声の方に振り返った山本は目を疑った
「い・・・イチローさん？」「なんだYOSSY、居眠りでもしてたのか？」
「な・・・中嶋監督？」「なんだ山本、かってに中嶋さんを引退させやがって」
「平井さん・・・」　山本は半分パニックになりながらスコアボードを見上げた
１番：田口　２番：大島　３番：イチロー　４番：ニール　５番：藤井　６番：福良　７番：小川　８番：中嶋　９番：フレーザー
暫時、唖然としていた内川だったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった
「勝てる・・・勝てるんだ！」
星野からグラブを受け取り、グラウンドへ全力疾走する山本、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・

翌日、ベンチで冷たくなっている内川が発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った