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深夜に芥川龍之介『羅生門』を読み返す��

1 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 03:29:52 ID:3gqu2xIa0.net
羅生門

芥川龍之介

138 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:12:53 ID:3gqu2xIa0.net
 私は、今宵、殺される。
殺される為に走るのだ。
身代りの友を救う為に走るのだ。
王の奸佞邪智を打ち破る為に走るのだ。
走らなければならぬ。
そうして、私は殺される。
若い時から名誉を守れ。
さらば、ふるさと。
若いメロスは、つらかった。
幾度か、立ちどまりそうになった。
えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。

村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、雨も止やみ、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。

139 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:13:19 ID:3gqu2xIa0.net
メロスは額ひたいの汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。
妹たちは、きっと佳い夫婦になるだろう。
私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。
まっすぐに王城に行き着けば、それでよいのだ。
そんなに急ぐ必要も無い。
ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気のんきさを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。

140 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:13:56 ID:3gqu2xIa0.net
ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧わいた災難、メロスの足は、はたと、とまった。
見よ、前方の川を。
きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。
彼は茫然と、立ちすくんだ。

141 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:14:08 ID:giTR9GOU0.net
メロスになっとるやんけ

142 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:14:13 ID:UPz92A7xd.net
>>137
走れメロスも原典というか創作元の話はあるがそれを日本の小中学生にスラスラ読ませるのが太宰の才能や

143 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:14:32 ID:3gqu2xIa0.net
あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に浚われて影なく、渡守りの姿も見えない。
流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。
メロスは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながらゼウスに手を挙げて哀願した。
「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、王城に行き着くことが出来なかったら、あの佳い友達が、私のために死ぬのです。」

144 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:15:10 ID:3gqu2xIa0.net
 濁流は、メロスの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。
浪は浪を呑み、捲き、煽り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。
今はメロスも覚悟した。
泳ぎ切るより他に無い。
ああ、神々も照覧あれ! 
濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。
メロスは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。

145 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:15:38 ID:OrKvUIp20.net
安倍の悪政によって現代日本も人心が荒廃してるよな

146 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:15:41 ID:3gqu2xIa0.net
満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。
押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。
ありがたい。メロスは馬のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。

147 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:16:05 ID:VeJ9EpVo0.net
>>142
ワイが言ったのは羅生門のほうや
メロスは分かりやすくて嫌いじゃないで

148 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:16:09 ID:3gqu2xIa0.net
一刻といえども、むだには出来ない。
陽は既に西に傾きかけている。
ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一隊の山賊が躍り出た。
「待て。」
「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに王城へ行かなければならぬ。放せ。」
「どっこい放さぬ。持ちもの全部を置いて行け。」
「私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから王にくれてやるのだ。」
「その、いのちが欲しいのだ。」

149 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:16:19 ID:9EaMZM9C0.net
山月記のがすこ

150 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:16:52 ID:feKc/5DZ0.net
メロスはビシッとなんか筋通っててすき

151 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:16:53 ID:3gqu2xIa0.net
「さては、王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。」
 山賊たちは、ものも言わず一斉に棍棒を振り挙げた。
メロスはひょいと、からだを折り曲げ、飛鳥の如く身近かの一人に襲いかかり、その棍棒を奪い取って、
「気の毒だが正義のためだ!」と猛然一撃、たちまち、三人を殴り倒し、残る者のひるむ隙に、さっさと走って峠を下った。
一気に峠を駈け降りたが、流石に疲労し、折から午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照って来て、メロスは幾度となく眩暈を感じ、これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。

152 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:17:15 ID:mBm6DM4/0.net
つよい

153 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:17:37 ID:3gqu2xIa0.net
立ち上る事が出来ぬのだ。 
天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。
ああ、あ、濁流を泳ぎ切り、山賊を三人も撃ち倒し韋駄天
、ここまで突破して来たメロスよ。
真の勇者、メロスよ。
今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。
愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて殺されなければならぬ。
おまえは、稀代の不信の人間、まさしく王の思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身萎えて、もはや芋虫ほどにも前進かなわぬ。

154 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:17:37 ID:VeJ9EpVo0.net
>>151
なろうやん

155 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:18:17 ID:3gqu2xIa0.net
路傍の草原にごろりと寝ころがった。
身体疲労すれば、精神も共にやられる。
もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐れた根性が、心の隅に巣喰った。
私は、これほど努力したのだ。
約束を破る心は、みじんも無かった。
神も照覧、私は精一ぱいに努めて来たのだ。
動けなくなるまで走って来たのだ。
私は不信の徒では無い。
ああ、できる事なら私の胸を截ち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。
愛と信実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。

156 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:19:06 ID:3gqu2xIa0.net
けれども私は、この大事な時に、精も根も尽きたのだ。
私は、よくよく不幸な男だ。
私は、きっと笑われる。
私の一家も笑われる。
私は友を欺いた。
中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。
ああ、もう、どうでもいい。
これが、私の定った運命なのかも知れない。
セリヌンティウスよ、ゆるしてくれ。
君は、いつでも私を信じた。
私も君を、欺かなかった。
私たちは、本当に佳い友と友であったのだ。
いちどだって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。

157 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:19:19 ID:w0fy0dFW0.net
ここサビの直前みたいで好き

158 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:19:23 ID:qP/rKONgp.net
羅生門で思い出したが人間椅子ドイツでライブやったんやってな

159 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:19:35 ID:3gqu2xIa0.net
いまだって、君は私を無心に待っているだろう。
ああ、待っているだろう。
ありがとう、セリヌンティウス。
よくも私を信じてくれた。
それを思えば、たまらない。
友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝なのだからな。
セリヌンティウス、私は走ったのだ。
君を欺くつもりは、みじんも無かった。
信じてくれ! 
私は急ぎに急いでここまで来たのだ。
濁流を突破した。

160 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:19:56 ID:UPz92A7xd.net
>>147
羅生門は今昔物語集が元ネタやろ
そこにセンチメンタリズムみたいな近現代的な心理への注釈を付けて解釈して見せてるのすごいと思うけどなあ

161 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:20:06 ID:3gqu2xIa0.net
山賊の囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて来たのだ。
私だから、出来たのだよ。
ああ、この上、私に望み給うな。
放って置いてくれ。
どうでも、いいのだ。
私は負けたのだ。
だらしが無い。
笑ってくれ。
王は私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。
おくれたら、身代りを殺して、私を助けてくれると約束した。
私は王の卑劣を憎んだ。
けれども、今になってみると、私は王の言うままになっている。

162 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:20:41 ID:3gqu2xIa0.net
私は、おくれて行くだろう。
王は、ひとり合点して私を笑い、そうして事も無く私を放免するだろう。
そうなったら、私は、死ぬよりつらい。
私は、永遠に裏切者だ。
地上で最も、不名誉の人種だ。
セリヌンティウスよ、私も死ぬぞ。
君と一緒に死なせてくれ。
君だけは私を信じてくれるにちがい無い。
いや、それも私の、ひとりよがりか? 
ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。
村には私の家が在る。
羊も居る。
妹夫婦は、まさか私を村から追い出すような事はしないだろう。

163 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:21:07 ID:3gqu2xIa0.net
正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。
人を殺して自分が生きる。
それが人間世界の定法ではなかったか。
ああ、何もかも、ばかばかしい。
私は、醜い裏切り者だ。
どうとも、勝手にするがよい。
やんぬる哉かな。
――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。

164 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:21:32 ID:UPz92A7xd.net
こうやって諦める理由を心の中で並べ立てるのを打ち破れるメロスかっこええわ

165 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:21:46 ID:3gqu2xIa0.net
ふと耳に、潺々、水の流れる音が聞えた。
そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。
すぐ足もとで、水が流れているらしい。
よろよろ起き上って、見ると、岩の裂目から滾々と何か小さく囁きながら清水が湧き出ているのである。
その泉に吸い込まれるようにメロスは身をかがめた。
水を両手で掬って、一くち飲んだ。
ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。
歩ける。行こう。

166 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:22:03 ID:KHmNQbN+0.net
羅生門で死体食ってるババア

167 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:22:23 ID:3gqu2xIa0.net
肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。
義務遂行の希望である。
わが身を殺して、名誉を守る希望である。
斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。
日没までには、まだ間がある。
私を、待っている人があるのだ。
少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。
私は、信じられている。
私の命なぞは、問題ではない。
死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。
私は、信頼に報いなければならぬ。
いまはただその一事だ。
走れ! メロス。

168 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:22:54 ID:3gqu2xIa0.net
私は信頼されている。
私は信頼されている。
先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。
悪い夢だ。忘れてしまえ。
五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものだ。
メロス、おまえの恥ではない。
やはり、おまえは真の勇者だ。
再び立って走れるようになったではないか。ありがたい! 
私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ。ああ、陽が沈む。
ずんずん沈む。待ってくれ、ゼウスよ。
私は生れた時から正直な男であった。
正直な男のままにして死なせて下さい。

169 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:22:57 ID:9Z6rSAhV0.net
昔は小学生の教科書にこれがあったんやで

170 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:23:15 ID:GkUull640.net
>>169
今はないんか?

171 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:23:17 ID:3gqu2xIa0.net
路行く人を押しのけ、跳はねとばし、メロスは黒い風のように走った。
野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴けとばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。
一団の旅人と颯っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。

172 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:23:41 ID:Rrb/WV8p0.net
>>155
ここリアル太宰の言い訳っぽくて好き

173 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:23:49 ID:3gqu2xIa0.net
「いまごろは、あの男も、磔にかかっているよ。」ああ、その男、その男のために私は、いまこんなに走っているのだ。 
その男を死なせてはならない。急げ、メロス。
おくれてはならぬ。愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。
風態なんかは、どうでもいい。メロスは、いまは、ほとんど全裸体であった。
呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。
見える。はるか向うに小さく、シラクスの市の塔楼が見える。塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。

174 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:24:09 ID:3gqu2xIa0.net
「ああ、メロス様。」うめくような声が、風と共に聞えた。
「誰だ。」メロスは走りながら尋ねた。
「フィロストラトスでございます。貴方のお友達セリヌンティウス様の弟子でございます。」その若い石工も、メロスの後について走りながら叫んだ。
「もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方かたをお助けになることは出来ません。」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」
「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」

175 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:24:30 ID:3gqu2xIa0.net
「いや、まだ陽は沈まぬ。」メロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。
走るより他は無い。
「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。
王様が、さんざんあの方をからかっても、メロスは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でございました。」
「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。

176 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:24:53.75 ID:3gqu2xIa0.net
間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。ついて来い! フィロストラトス。」
「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」
 言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、メロスは走った。
メロスの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。

177 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:25:03.22 ID:mBm6DM4/0.net
ここ全速力で走りながら話してるの草生える

178 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:25:23.22 ID:3gqu2xIa0.net
ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、メロスは疾風の如く刑場に突入した。間に合った。
「待て。その人を殺してはならぬ。メロスが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉のどがつぶれて嗄しわがれた声が幽かに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。
すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたセリヌンティウスは、徐々に釣り上げられてゆく。

179 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:25:34.46 ID:UPz92A7xd.net
>>172
太宰は友人を人質にして宿代払うための借金を申し込みに井伏鱒二のところ行ったのに言い出しにくいなあって数日ウジウジしとったぞ

180 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:25:48.41 ID:3gqu2xIa0.net
メロスはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、
「私だ、刑吏! 殺されるのは、私だ。メロスだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、齧りついた。
群衆は、どよめいた。あっぱれ。
ゆるせ、と口々にわめいた。セリヌンティウスの縄は、ほどかれたのである。

181 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:25:54.98 ID:9Z6rSAhV0.net
走れメロスええなあ アニメで見ただけや

182 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:26:27.87 ID:3gqu2xIa0.net
「セリヌンティウス。」メロスは眼に涙を浮べて言った。「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若もし私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」
 セリヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴った。殴ってから優しく微笑ほほえみ、
「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」
メロスは腕に唸りをつけてセリヌンティウスの頬を殴った。

183 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:26:49.28 ID:3gqu2xIa0.net
「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。

 群衆の中からも、歔欷の声が聞えた。
暴君ディオニスは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。

184 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:27:13.32 ID:3gqu2xIa0.net
「おまえらの望みは叶かなったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
 どっと群衆の間に、歓声が起った。

「万歳、王様万歳。」
 ひとりの少女が、緋ひのマントをメロスに捧げた。
メロスは、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。

185 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:27:33.77 ID:3gqu2xIa0.net
「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
 勇者は、ひどく赤面した。

(古伝説と、シルレルの詩から。)

186 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:28:30.30 ID:Rrb/WV8p0.net
>>179
待つほうもツライかもしれんけど、待たせるほうもツライんやで?

187 :風吹けば名無し:2020/02/21(金) 04:28:36.41 ID:UPz92A7xd.net
セリヌンティウスにとってもメロスにとっても人質にしたことも人質にされたことも問題ではないんやなええ話や

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