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寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。
- 1 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:39:02.23 ID:hcOKOisN0.net
- 「自分の人生には、何円くらいの価値があるか?」
そんな質問をされたことがあったな。
確か、小学四年生の道徳の授業だったか。
大半の生徒は、きょろきょろ周りを見ながら、
最終的には、数千万から数億という結論を出してさ。
「お金では買えない」って考えを譲らない生徒もいたね。
大人に聞いても、似たような答えが返ってくるだろうな。
少なくとも俺は、実際に寿命を売るその日までは、
自分の人生は二、三億くらいの価値があると思ってた。
だから十年か二十年くらい寿命を売って数千万得て、
残りの人生を楽に生きるのが利口だと考えてたんだよ。
幸せな六十年とそうでもない八十年だったら、
前者の方が絶対いいに決まってるからな。
査定結果を見た時はひっくり返りそうになったぜ。
どうやら俺の一生、百万円にも満たないらしいんだよ。
- 2 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:40:08.78 ID:O3puCddT0.net
- 松沢君は0円だぞ
- 3 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:40:17.99 ID:hcOKOisN0.net
- 二十歳の七月くらいの時の話なんだが、
その頃、俺はとにかく金に困ってた。
白米とみそ汁以外のものを口にしてなくてさ、
数日前、ウェイターのバイト中に三回ぶっ倒れて、
そろそろ栄養のあるものを食べないとまずいと思った。
金になるものといったら、家具、数十枚のCD、
それに数百冊の蔵書の他には考えられなかったな。
ほとんど中古品で、たいした価値はないんだが、
それでも一か月の食費くらいにはなるかと思って、
できるだけ新品に近付けようと入念に掃除して、
行きつけの古書店や楽器屋に売りに行ったわけだ。
- 4 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:41:18.70 ID:lkjFZYo30.net
- ピエール瀧さんに対するおぎやはぎの発言が「この視点は大事」と称賛される「素晴らしい」「見直した」
http://gheri.indofanfic.net/zxxgt/28538479
- 5 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:41:51.90 ID:hcOKOisN0.net
- 古書店の爺さんは、俺が本を大量に売りにきたのを見て、
「一体何があったんだ?」って心配してくれた。
普段はそっけない爺さんだったから、意外だったな。
「紙はおいしくありませんからね」って俺が遠回しに答えると、
爺さんは心底同情したような目で俺を見つめた。
でも金はくれなかったな。向こうも貧乏だから仕方ないけど。
はした金を受け取って店を出ようとすると、
爺さんは「なあ、ひとつ話がある」と俺を引きとめた。
金くれんのかなーと思って「はい?」と戻ると、
言われたんだよ、「寿命、売る気ねえか?」って。
- 6 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:43:01.99 ID:hcOKOisN0.net
- 老いの恐怖でついにボケちまったかと思いつつ、
俺は話半分に爺さんの説明を聞くことにした。
つまりは、こういうことらしい。
ここからそう離れていないとこにあるビルに、
寿命の買い取りを行っている店が入ってるらしい。
そこでは時間や健康さえも売れるんだが、
寿命は特に高値で取引されてるんだそうだ。
爺さんは震える手で地図と電話番号まで書いてくれたが、
俺でなくたって、そんな話、爺さんの願望が作り上げた
空想に過ぎないって思ってしまうだろう。
ちょっとかわいそうに思ったね。死ぬの怖えんだろうな、って。
- 7 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:44:21.21 ID:hcOKOisN0.net
- だが結局、俺はそのビルに向かうことになった。
CDも本も家具も、まったく金にならなかったからだ。
寿命を売るなんて話を信じたわけじゃない。
しかし、俺はこういう可能性を考えたんだよ。
爺さんや兄ちゃんが言っていたことは何かの比喩で、
実はものすごく割のいいバイトがあるんじゃないかって。
寿命を縮めるようなリスクを負う代わりに、
一か月で百万くらい稼げたりするとか、そういうの。
ところが、うす暗い階段を上がってドアを開け、
目が合った店員らしき女が、俺の顔を見るなり
「時間ですか? 健康ですか? 寿命ですか?」
なんて言ってくるもんだから、笑っちゃうよな。
- 8 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:45:17.59 ID:hcOKOisN0.net
- 一連の出来事で神経がまいっていたのか、
俺はもう考えるのが面倒になって、「寿命」と答えた。
「二時間ほどお時間をいただきます」と女は言い、
すでに両手はPCのキーボードをかたかた叩いていた。
おいおい、人の価値って二時間程度で分かっちゃうのかよ?
俺はあらためて店内を見回した。
なんていうんだろうな、眼鏡のない眼鏡屋、
宝石のない宝石店みたいな空間とでもいうか。
でも俺の目に見えないだけで、本当はそこら中に
寿命とか健康とか時間が飾ってあるのかもしれない。
なんてな。いつまでこの笑えない冗談は続くんだ?
- 9 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:46:13.35 ID:nR2s1gNMM.net
- 結末はまあまあ良かった
途中読むの止めようかと思ったが
- 10 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:46:34.02 ID:Zyb2q2Ir0.net
- 読んだことあるな
- 11 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:46:47.79 ID:ygm9k4J30.net
- 懐かしい
- 12 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:47:11.45 ID:hcOKOisN0.net
- 駅前の広場に行って、煙草に火を点け、
最後の一本を時間をかけて味わった。
煙草もそろそろやめなきゃな、と思う。
金食い虫だし、健康にもよくねえからな。
近くで鳩に餌をやっている老人がいたんだが、
それで食欲が湧いてしまう自分が情けなかったな。
もうちょっとで鳩と一緒に地面をつっつくとこだったぞ。
寿命、高く売れるといいなあ、と思った。
駅で時間を潰した後、俺は少し早めに店に戻り、
ソファでうたた寝しながら査定結果が出るのを待った。
二十分ほどして、俺の名前が呼ばれた。
妙だよな。俺、一度も名乗った覚えはないんだよ。
- 13 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:47:28.38 ID:dgZpRlh20.net
- なつかしい
- 14 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:47:28.62 ID:h0gsQh3Nr.net
- ほ
- 15 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:47:29.63 ID:xmBQrDe70.net
- ジャンプラで読んだ
- 16 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:47:52.65 ID:5f0qwVrT0.net
- 能みたいな話やな
- 17 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:47:58.52 ID:hmjECmSIr.net
- 元ってどこに貼ってあるんや?
- 18 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:48:33.34 ID:RSYHI2W8M.net
- まん
- 19 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:48:57.18 ID:qqrnHBWI0.net
- 三日間の幸福
- 20 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:49:36.56 ID:kcXAt1AY0.net
- なんでいまさら?
- 21 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:49:37.44 ID:hcOKOisN0.net
- 査定結果を見て、俺は変な声をあげちまった。
一年につき一万円? 余命三十年?
ブックオフだってもう少しまともな値段をつけるぞ。
カメか何かの結果と取り違えたんじゃないのか?
でも、そこには確かに俺の名前が書いてある。
「これ、何を基準に決められてるんですか?」
俺はそう言いつつ査定表を女店員に見せた。
「色々です」と彼女は面倒そうに答えた。
「幸福度とか、実現度とか、貢献度とか、色々」
多分、こういう質問に飽き飽きしているんだろうな。
- 22 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:49:38.96 ID:tvPMry6Da.net
- ショートショート思い出すわ
- 23 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:50:01.53 ID:d83FwBwip.net
- 懐かしい
- 24 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:50:11.82 ID:7VhwMUOza.net
- なっつ
- 25 :風吹けば名無し:2019/03/19(火) 02:51:29.59 ID:hcOKOisN0.net
- 女店員はシステムの詳細を教えてくれた。
本当は教えちゃいけないらしいんだが、
あんまりにも俺がしつこかったんだろうな。
特にショッキングだった情報は、一万円というのが、
寿命一年あたりの最低買取価格だったってこと。
ようするに、俺の人生は限りなく無価値に近いってことだ。
幸せになれず、また誰一人幸せにできず、
何一つ達成できず、何一つ得られないらしい。
「問題がなければ、こちらにサインをお願いします」
女店員がしびれを切らしたように言うが、
これを見て問題がないって言うやつがいたら、
そいつは脳の病院に行った方がいいと思うぜ。
だがその頃には俺の感覚は麻痺しちまっててさ、
自分の物や時間を安売りするのに慣れ過ぎてた。
で、ヤケになって、こう答えちまったんだ。
「三か月だけ残して、あとは全部売ります」
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