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小説かいたからアドバイスくれや!
- 1 :風吹けば名無し:2018/11/09(金) 13:09:44.23 ID:VlkNQn2Fa.net
- 蟷螂がとても好きだった。数百のレンズから成る目。獲物を逃がさぬ鎌。完成されたフォルム。
夏、草むらへ入っていく。長い虫取り網とふたつの虫かごを持って、探検するように雑草を掻き分ける。狙いが定まらぬまま、ただ力いっぱい振って、網の中に入る蟲を眺める。一匹一匹鑑定する。
殿様バッタを捕まえた、蟷螂じゃない。ギンヤンマを捕まえた、蟷螂じゃない。
要らない蟲をつかんで投げた。投げた勢いで羽がもげ、後ろ足が落ちた。飛べないギンヤンマと跳べない殿様バッタがどうなったのか、俺は知らない。
ただ俺は蟷螂が捕まえたかっただけなのだ。
日が高く上り、髪の毛が汗で濡れたころ、ようやく大蟷螂を捕まえた。茶色の外皮。二つの鎌。十六センチを超える大迫力。
こいつはカッコいい、飼おう。虫かごに入れて、餌と葉っぱを入れて育てよう。
俺は満足し、家に帰ると勉強机の上で蟷螂を離した。蟷螂は暴れず、じっとしている。ときより触覚を上下上下と動かし、なにかを探っている。蟷螂は徘徊して獲物を探さない。じっと待つ。
蟷螂の捕食シーンが見たくて、餌のコウロギを与えてみた。しかしすぐに食いつくことはなかった。食物連鎖の下位にいるコウロギがぴょんと跳ねる。
机からいなくなり、いつの間にか部屋からもいなくなる。
いまになって、虫かごの中に蟷螂とコウロギを入れておけばよかった。密閉された空間ならば、逃げる心配も、忘れたころに干からびたコウロギの死骸を机の下から見ることもなかったのに。
ただその時は、直接餌をむさぼる蟷螂が見たかった。虫かごの透明なプラスチックさえ鬱陶しかった。出来ることなら自分の目玉をくり抜いて、同じ虫かごで飼いたいぐらいだ。
消えたコウロギの代わりに、新しいコウロギを取り出した。今度は跳べないように一番後ろの足を二本とも千切った。
短い四本の足でノロノロと歩くコウロギ。離乳食を作る母親になった気分だ。食べやすいでしょ、と蟷螂に話しかけた。
蟷螂が餌に狙いを決めた。鎌を深く畳み、触覚がコウロギに向けられる。
二つの大鎌の射程圏内に入った。
鋭利な棘たちが一瞬だけブレた瞬間で、蟷螂はコウロギを捕らえる。
ジタバタと抵抗する食料に、蟷螂は喰いつかない。
夕食の招集をする母親に生返事で答えながら、俺はじっと待った。一、二分経ったところで、疲れたコウロギはまだ生きているのに動かなくなる。蟷螂はそのタイミングで喰らいついた。
俺の一番好きな時間が始まる。
彼ら捕食者は、必ず対象の首から食べる。それも後ろから。どんな形で捕まえようと、鎌をうまく動かして、首裏から食べる。
どこから食べれば絶命に至るか、無駄な体力を消費せず完食出来るか、彼らは知っている。歴史のDNAが教えてくれているのだ。
生まれたての蟷螂も同じように食べる。共食いをする時でさえ、首から食べる。
俺はこの瞬間が一番好きだ。自分の知らないことを蟷螂が知っているような気がして、好きだ。スリッパで叩き潰せば死ぬような生き物が、俺に今歴史と命を教えてくれている。
蟷螂がコウロギを食らい尽くし、鎌に付いているブラシでキレイキレイしているのを見て、自然と笑みがこぼれた。
同じタイミングで、母親の声が家に響く。今日の夜はカレーだと。
でも俺の意識は蟷螂から離れない。ぱんぱんに膨らんだ腹を見て、ここにコウロギは入っているんだと理解した。
俺は勢いよく右手で腹を潰した。土臭い匂いを立てながら肛門から内臓とコウロギの肉片が飛び出る。
原型のないコウロギの肉たちは綺麗な色をしていた。白に近い灰。射出された内臓と肉団子をうっとり眺めた後、飽きてゴミ箱へ捨てた。
明日の天気が気になった。網と虫かごは、やはり晴れに限る。次はもっと大きいのを捕まえよう。
リビングへ向かい、手を洗う。料理が冷めるでしょ、と母親が小言を言った。
ごめんなさいと謝って、俺は口いっぱいにカレーを詰め込んだ。
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