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15年後のサザエさん

1 :風吹けば名無し:2018/08/11(土) 09:27:48.44 ID:5zQjJogRM
カツオと波平

「カツオー!」
 今日も磯野家は波平の怒号が飛ぶ。
「カツオ、お前、就職活動はどうなんだ」
「どうって、まあボチボチボチってところかな」
「なんだその言い草は! お前、ハローワークには行ったのか!」

2 :風吹けば名無し:2018/08/11(土) 09:32:31.72 ID:5zQjJogRM
 カツオは今年26歳。大学を中退した後は就職もせずにフラフラしている。
「ハローワークね。行ったよ。三か月前にね」
「ばっかもん! 続けて行かなきゃ意味がないだろう!」
 カツオは波平と目を合わせようとせず、ため息を吐いた。
「ハローワークには僕が探している仕事は無いよ」
「なにぃ?」
「父さん、僕はね、作家になりたいんだ」

3 :風吹けば名無し:2018/08/11(土) 09:37:03.07 ID:5zQjJogRM
 カツオの言葉を聞いた波平は、顔を真っ赤にして今にも噴火しそうだ。
 それでもカツオはやめない。
「家族には苦労掛けて申し訳なく思うけど、これも必要な過程なんだよ。元来作家っていうのはね、普通の生き方をしてはいけないんだ。これは運命的なことなんだよ」
「なぁにを馬鹿げたことを! だいいちお前、先のことを考えているのか!」
 それを聞いたカツオはふふんと人を小馬鹿にするような表情を見せる。
「もちろんだよ父さん! これから僕の書いたラノベが新人賞を獲って、その本が売れに売れ印税収入がどかーん! とね。その上アニメ化なんかもされちゃったりなんかして……」

4 :風吹けば名無し:2018/08/11(土) 09:43:30.67 ID:5zQjJogRM
「……らのべだか何だか知らんが、カツオ、それは本気で言っているのか?」
 波平の身体がわなわなと震えている。
「まあ、僕ももう大人だ。そんなに上手くいかないことくらい分かってるよ。でもさ、人生何が起こるか分からないから楽し」
「ばっかもーん!」
 磯野家が再び揺れる。古くなった家からミシミシと音が聞こえるようだ。
「……くぅ、父さんのカミナリは相変わらず効くなあ」

5 :風吹けば名無し:2018/08/11(土) 09:48:45.13 ID:5zQjJogRM
「ふざけたことを言うんじゃない! お前今年で何歳になる! いい大人が、大の男が、いつまでもそんなガキのようなことを言っているのでは恥ずかしくてご近所に顔向けもできん!」
「……近所ね」
「いいからすぐに就職をしろ! そうすれば今のお前の考えが如何にくだらないか、嫌でも分かる」
「それが分かって、その後はどうするんだい」
「な、なに?」
「今の僕が全然ダメで、だから就職をする。そうすればこの先の安心を買えると言うの?」

6 :風吹けば名無し:2018/08/11(土) 09:54:30.06 ID:5zQjJogRM
「なぁにを訳の分からないことを! 当たり前だ!」
「安心の為に自分を捨てろと?」
「なっ、まだそんなくだらないことを!」
「くだらなくない! 馬鹿げてなんかもない! 父さんはいつもそうだ!」
 今度はカツオが大声を上げる。
 驚く波平。その声に台所から様子を窺っていたフネがたまらず居間に出てきた。

7 :風吹けば名無し:2018/08/11(土) 10:01:22.90 ID:5zQjJogRM
「カツオ、そんな大きな声を出すもんじゃありませんよ……!」
「うるさいな! 母さんは黙っててよ!」
「母さんになんて口の利き方だ!」
「父さん! 話を逸らさないでくれる? だいいち、就職なんかしたところで会社の使いっ走りにされて、いらなくなったらゴミのように捨てられるのがオチなんだ」
「何を言うか! ……父さんだってな、決して給料は高くなかったが、同じ会社で定年まで働いてきたんだぞ。何もそんな悪いように悪いように考えることはなかろう」
「自分が生きたいように生きて、ダメならダメでその花火を自分の意思で派手に散らすような生き方がしたい。それを願って何が悪いんだ!」

8 :風吹けば名無し:2018/08/11(土) 10:06:53.59 ID:5zQjJogRM
「ば……カツオ!」
「だいたいね! 今の時代就職したところで安心なんか買えやしないんだよ。父さんの時代とは違うんだ! 父さんは全然分かってないね!」
「っ! カ、カツオ! 待て! うぐっ」
「あなた! あまり興奮されるとお身体に障りますよ」
「うぬぅ、大丈夫。心配するな。それより、カツオ……」
 波平はただただうなだれる他無かった。

9 :風吹けば名無し:2018/08/11(土) 10:08:11.10 ID:5zQjJogRM
(つ、続けて良いものだろうか……てかこの時間読んでる人いるのか)

10 :風吹けば名無し:2018/08/11(土) 20:08:42.19 ID:/2aEQaGDp
でも年取らないこの家族に時間軸は存在しないのでは??

11 :風吹けば名無し:2018/08/11(土) 20:34:57.30 ID:xAR94qnZf
>>10 突っ込んだら負け

12 :風吹けば名無し:2018/08/11(土) 21:50:25.02 ID:kupg41Cvc
ここscやで

13 :風吹けば名無し:2018/08/12(日) 01:18:41.39 ID:ZGk/WuJpf
お前はまだ本物のなんJを知らない―――

14 :風吹けば名無し:2018/08/12(日) 09:41:03.59 ID:MlrXA2eXN
カツオ、童貞卒業
タマ、死ぬ
タラちゃん、オナニーを覚える

こんな感じ

15 :風吹けば名無し:2018/08/12(日) 13:23:53.25 ID:psBI0laID
読んでるぞ

16 :風吹けば名無し:2018/08/12(日) 13:24:08.46 ID:psBI0laID
面白い

17 :1:2018/08/12(日) 19:28:51.40 ID:KBMgCD03s
サザエとカツオ

 その日の夜。
「カツオー。ちょっと入っていいかしら」
「姉さん、なんか用?」
 カツオの部屋にサザエが入る。その手にはお茶とせんべいの乗った盆。

18 :1:2018/08/12(日) 19:29:22.20 ID:KBMgCD03s
>>15
ありがたい

19 :1:2018/08/12(日) 19:31:29.84 ID:KBMgCD03s
「これ、甚六さんがね、食べてって」
「あー、甚六さんか。帰ってきてるの?」
「そう。中国のお嫁さん貰ってからますます仕事がんばってるみたいね」
「……それ、僕へのあてつけ?」
「そうかもねー」
「そういうのなら出てってよ」

20 :1:2018/08/12(日) 19:36:53.99 ID:KBMgCD03s
「ふふ、まあそう言わずに。あんたまた父さんと喧嘩したんだって?」
 どうやら先ほどの言い争いのことをフネから聞いたそうだ。
「喧嘩じゃないよ。意見の交換さ。それでたまたま互いの見解がすれ違ったってだけ」
「もう、それを喧嘩って言うんじゃない。父さんも歳で高血圧なんだし、あんまり興奮させちゃだめよ」
「分かってるよ」
「あー、このおせんべいおいしい。あんたも食べなさい」
 カツオはここのところどうにもサザエが苦手である。この姉はいつでも自分より一歩上手な気がしてならない。どうしてもペースを持っていかれてしまうのだ。

21 :1:2018/08/12(日) 19:39:46.18 ID:KBMgCD03s
「……姉さんはね、あなたのこと理解してあげたいし、だけど父さんの気持ちもすごくよく分かるわ」
「いいよ、そういう話は」
「あなたには鬱陶しく聞こえるかもしれないけどね、父さんはあなたのことを考えてあんな風に言ってくるのよ」
「たしかに鬱陶しいね」
「……カツオ」
「冗談だよ。でも、僕は自分の生きたいように生きたいんだ。それは絶対に譲れない」

22 :1:2018/08/12(日) 19:41:09.16 ID:KBMgCD03s
 それを聞いたサザエはお茶をすすり、ふぅ、とひと息吐く。
「まああんたなら大丈夫だと思うけどね。ほどほどになさい」
「ほどほどってなんだよ」
「ほどほどはほどほどよ。じゃ、邪魔したわね」
「……姉さん」
「んー?」
「ありがとう」
「……」

23 :1:2018/08/12(日) 19:53:29.26 ID:KBMgCD03s
ワカメとフネ

 会社から二駅先にあるマンションにワカメは一人暮らししている。
 仕事に疲れて帰っても、彼女は夕飯の自炊を欠かしたことがない。
 今夜も夕飯を食べながら21時のドラマを観ようとしたところ。
 そこでバッグの中に入れたままにしてあったスマートフォンが鳴る。

24 :風吹いても名無し:2018/08/12(日) 19:54:21.55 ID:JvO4BNd/T
面白い
続きあくしろよ

25 :1:2018/08/12(日) 19:55:41.68 ID:KBMgCD03s
「あら、お母さんからだわ。もしもし?」
「ああ、ワカメかい? そっちはどう?」
「うん。元気よ。お母さんは?」
「こっちはみんな元気よ。ただねえ……」
「さてはお兄ちゃんね?」
「そうなの。今日もお父さんと大きな声で怒鳴り合いの喧嘩してね……」

26 :1:2018/08/12(日) 20:03:50.90 ID:KBMgCD03s
「ええ? 大丈夫なの?」
「ええ。サザエが様子見に行ってくれたから」
「さすがお姉ちゃんね」
「……あの子ほとんど部屋に籠りきりでしょう。心配で心配で」
「うーん。お兄ちゃんのことはともかく、お母さんやお父さんが心配だわ」
「ううん、私たちのことはいいのよ。どう、あなたは仕事上手くいってるの?」

27 :1:2018/08/12(日) 20:04:29.73 ID:KBMgCD03s
>>24
ありがたい

28 :1:2018/08/12(日) 20:06:33.56 ID:KBMgCD03s
「それが全然。今日も先輩に怒られちゃった」
「あらあら」
「でもがんばってる」
「そう。ワカメなら大丈夫よ。でも無理しないで、たまには顔見せてね」
「うん。分かった。……あんまりお兄ちゃんひどいようなら、私からもガツンと言うから」
「フフ、ありがとうね」

29 :1:2018/08/12(日) 20:08:42.30 ID:KBMgCD03s
「うん。じゃあ身体に気を付けて」
「はい。ワカメもね。じゃあね」
 ベットの上に伸ばしておいた充電コードにスマートフォンを接続する。部屋はテレビから流れるたいしておもしろくもないドラマの音声で満たされている。
(私、昔のお兄ちゃんは大好きだった。でも今は働きもせずにお父さんとお母さんを泣かせてばかり。
 ねえ、お兄ちゃん、一体どうしちゃったの?)

30 :1:2018/08/12(日) 20:11:06.14 ID:KBMgCD03s
ちょっとだけ離れる

31 :1:2018/08/12(日) 20:20:15.87 ID:KBMgCD03s
タラオと三郎

「ちはー! 三河屋ですー!」
「ああ、サブちゃん、こんにちは」
「タラオ君。どうだい、勉強の方は」
「あはは、それがなかなか上手くいかなくて」

32 :1:2018/08/12(日) 20:21:48.54 ID:KBMgCD03s
「大変そうだなあ。僕は高校出てからこっちに上京してきたからさ、大学受験の本当の苦労って分からないんだよね。……あ、そうそう、何か足りないものは?」
「あ、ええと……」
 タラオはこの年の3月に高校を卒業し、現在浪人生である。
「そういえばカツオくんは元気かい?」
「あ、ええと、はい。今も部屋の中で……」
 タラオはそこで口を噤む。

33 :1:2018/08/12(日) 20:25:05.58 ID:KBMgCD03s
「そっか。カツオ君もカツオ君なりに大変だろうね」
 三郎もカツオについてそれ以上聞こうとしない。
「……サブちゃん、僕、カツオ兄さんの気持ち、家族の中で一番分かるかもしれません。今こうやって浪人してて、この状況に不安を覚えることがあるんです。一歩間違えると全てを放って逃げ出しそうになる自分がいて。
僕にもカツオ兄さんと同じ血が流れてます。もしからしたら、僕とカツオ兄さんは似た者同士かも。なんか、カツオ兄さんを見ていると、僕の未来の姿を見ているみたいで……。
こんなこと言うの、カツオ兄さんに悪いし最低だって思うけど、すごく辛くなるんです。カツオ兄さんがいなければって、そう思うんです」

34 :1:2018/08/12(日) 20:29:39.67 ID:KBMgCD03s
 タラオの思いつめた言葉を聞いた三郎は、両手に持っていたビールケースをその場に置き、話し始めた。
「僕が最初にいた会社を辞めて今の三河屋に入ったときにさ、社長に言われたんだ。『サブ、お前は現状に満足するなよ。どんどん人と会って、自分の見識を広げてこい』って。
正直そのころの僕は腐ってたからさ、そんな風に言われても全然響かなかったんだよね。何がなんだかさっぱり分からなかった。たかだか酒屋の御用聞きがさ、見識なんか広げてどうすんだって」
「……」

35 :1:2018/08/12(日) 20:34:03.50 ID:KBMgCD03s
「でもその言葉がどうも心のどこかに引っ掛かってたんだろうね。元々田舎者で人と話したりするのは決して得意じゃなかったんだけど、それからは町の人たちと世間話を織り交ぜつつ色んな話をするようにしたんだ。
そしたら町の人たちの素性っていうか、噂話から悩み事まで、いろんな話が僕のところに舞い込んできてさ。変な言い方だけど、それがすごくおもしろくて。笑えるものからちょっと深刻なものまで色々と聞いたよ。
仕事がおもしろいって思えたの、そのときが初めてだったな」
「サブちゃん、色んなこと知ってますもんね」
「だろう? 歩く井戸端会議だからね。世のマダムに引っ張りダコさ」
「あはは」

36 :1:2018/08/12(日) 20:45:07.54 ID:KBMgCD03s
「ま、それは冗談としてだ……多分、カツオ君はさ、今人生の間でもがき苦しんでいるところだと思うよ。でもこれだって、新たな出会いや別れが全てを解決してくれるさ」
「だといいですけど……」
「大丈夫さ。それにカツオくんはすごくいい奴だからさ、タラオ君がそんな彼に似ているってことは、誇らしいことなんじゃないかな」
「サブちゃん……」
「ま、固い話は抜きにしてさ、今は他のことに目をくれず勉強するんだね。今度の受験に合格したら、僕が極上の酒をタラオ君にご馳走してあげるよ!」
「はは、嫌だなあ、僕はまだ未成年です」
「あ、そっか! じゃあ別の何かを考えとくよ。じゃ、毎度あり!」

37 :1:2018/08/12(日) 20:56:43.95 ID:KBMgCD03s
マスオとノリスケ

 会社帰り、駅前を歩くマスオ。そこに駆け寄るノリスケ。
「マスオさーん!」
「ああ、ノリスケ君」
「今帰りですか?」
「そうだよ。ところでどうだい? この後一杯」
「いいですねー! 行きましょう!」

38 :1:2018/08/12(日) 21:00:32.40 ID:KBMgCD03s
 処変わって屋台のおでん屋。
「あー、今日はずいぶん飲んだねえ」
「そうですね。こりゃタイ子に怒られちゃいますよ。毎日パートに出てくれて、苦労かけてますし」
「君も立派な家買ったからね。うちに居候していたころが懐かしいよ」
「あはは、あの時は波平おじさんにも本当にお世話になって」
「うんうん。ところでどうだい、イクラちゃんの受験の方は」

39 :1:2018/08/12(日) 21:11:19.36 ID:KBMgCD03s
「あー、うちの倅はマイペースですから、なんとかなるんじゃないですかね」
「すごいなあ。だって東大だろ?」
「いやあ、まだこれからですから。受かると決まっているわけじゃないですし」
「いやいや、受けるだけでもすごいよ」
「そんなこと言って、タラオ君だってがんばってるでしょう?」
「うーん、そうだね。まあ浪人生活は何かと大変みたいだね」

40 :1:2018/08/12(日) 21:15:01.23 ID:KBMgCD03s
「懐かしいなあ。僕にもそんな時代がありました」
「そうだねえ。若い内は色々と悩んでさ、大人になっていくんだよねえ」
「……僕らも歳を取りましたね」
「まあ、それもいいじゃないか! さあ、もっと飲むぞ!」
「わわっ、ローンが! タエ子に怒られる!」
「遠慮するなって! 今夜は奢るからさあ!」

41 :1:2018/08/12(日) 21:23:34.08 ID:KBMgCD03s
あと少しです。

42 :1:2018/08/12(日) 21:24:01.88 ID:KBMgCD03s
家族

「ただいまぁ」
「あらあなた! もうこんなに酔っ払って!」
「水ぅ、水をくれい!」
「ああ、父さん、大丈夫?」

43 :1:2018/08/12(日) 21:25:04.61 ID:KBMgCD03s
「おお、タラオ、勉強はどうだい? がんばれよー」
「もう、分かった分かった。酒臭いよ。母さん、寝室に運べばいい?」
「悪いわねータラオ。お願いできる?」
 そう言うとサザエは水を取りに台所に向かった。
「はいはーい。ほら、がんばって」
「うぃー」

44 :1:2018/08/12(日) 21:26:15.26 ID:KBMgCD03s
 その時、カツオの部屋の襖が開く。
「……」
「あ、カツオ兄さん」
「おっカツオ君じゃないか! どうだい! 作家業の方は!」
「父さん……!」
「いいんだ。酔っ払いに何言われようと、別に気にしないよ」

45 :1:2018/08/12(日) 21:30:47.45 ID:KBMgCD03s
 そのまま居間の方に向かって立ち去ろうとするカツオ。
「君は一体どれだけのものをこの世に残すつもりなんだい?」
 酔っ払ったマスオから放たれた一言に、背中を向けたカツオの動きが止まる。
「つまり、君は、穀潰しなわけだが、僕らの生活にとって何のメリットがあるんだい?」
「マスオ兄さん、それがマスオ兄さんが普段僕に対して思ってることなんだね?」
 あたりを支配するのは凍てつくような空気。今にも割れて崩れてしまいそうである。

46 :1:2018/08/12(日) 22:08:47.89 ID:CNZCmybvk
「僕の? 嫌だなあ、みんなそう思って……」
 ガスッ!
 カツオの拳がマスオの顔面に飛んだ。
 タラオに支えられていたマスオの身体が床に落ちる。
 その上に覆いかぶさりカツオが更にマスオの顔を目掛け殴ろうとする。
 それを必死に止めるタラオ。

47 :1:2018/08/12(日) 22:12:57.24 ID:CNZCmybvk
「カツオ兄さん! やめて! ごめんなさい、許して!」
「……っ!! ……っっ!!」
 言葉にならない言葉を発し、カツオはタラオに羽交い絞めにされながら暴れている。
「ちょっとちょっと、どうしたって言うのよ!」
 台所の方からサザエとフネが飛んでくる。
「あらやだ、あなた、血が出てるじゃないの!」

48 :1:2018/08/12(日) 22:13:51.63 ID:CNZCmybvk
「いやあ、大したことないよ。……僕もちょっと言い過ぎちゃったからね」
「カツオ! あんたがやったの?!」
「……そうさ」
 サザエの質問に対して少し落ち着きを取り戻したカツオは何でもないことのように答える。
 それを聞いたフネが口を押えて狼狽する。
「どうして、そんな……」

49 :1:2018/08/12(日) 22:15:15.70 ID:CNZCmybvk
「どうせ僕なんか、この家にいたって何の役にも立たないただの穀潰しさ」
 カツオはその場にいる全員を舐めまわすように見つめ、言い捨てる。
「マスオ兄さん、僕のこと、警察にでもなんでも訴えればいいよ!」
 バチン!
 サザエがカツオの頬を叩く。
「馬鹿……しっかりしてよ……」
 その時カツオはサザエの目に涙が浮かんでいるのを見た。
 カツオはそのまま家から走って出て行った。

50 :1:2018/08/12(日) 22:17:12.59 ID:CNZCmybvk
「お兄ちゃん」
 公園のベンチで一人座っているカツオに対し、聞き慣れた声が降り注ぐ。
「……ワカメか」
 ビジネスシャツを着たワカメは静かに兄の横に腰掛ける。
「なんだよ。お前、どうしてここにいるんだよ」
「お母さんから家であったこと聞いてね。電車乗って飛んできたのよ。それでお兄ちゃんなら、きっとここにいるかなって」
「余計なことを……」

51 :1:2018/08/12(日) 22:18:10.71 ID:CNZCmybvk
 ワカメが無言のままホットコーヒーを差し出す。
 それをカツオも無言のまま受け取った。
「もう、僕の居場所はあの家には無いのかもしれない」
「じゃあ、一人暮らしする?」
「……金が無い」
「私の家に来たっていいのよ」

52 :1:2018/08/12(日) 22:19:32.46 ID:CNZCmybvk
 カツオは顔を上げて隣を見る。ワカメは真っ直ぐに前を向いたまま両手で持った缶コーヒーに口を付けている。
「……そういうわけには、いかないよ」
「そう?」
 少しばかりの沈黙が辺りを支配する。
 するとしばらくしてワカメが再び口を開いた。
「私ね、今の仕事辞めようと思うの」

53 :1:2018/08/12(日) 22:23:11.35 ID:CNZCmybvk
「えっ」
「入った時からなんとなく感じていたんだけど、なんだか私には合わなくて」
「……」
「いつも先輩や上司に怒られちゃうし、今日だって……」
 ワカメの缶を握る手の力が強まったように感ぜられる。
「たまにお母さんと電話で話すとね、お父さんの体調のこととか、タラちゃんの受験のこととか、あと、お兄ちゃんのこととか、みんな大変そうで、そういう話を聞くたびに家族のことが心配になって。
私が帰って何ができるわけじゃないのよ。でも、家族の問題を言い訳に、私自身の問題から目を逸らそうとしている私がいて……」

54 :1:2018/08/12(日) 22:24:03.22 ID:CNZCmybvk
 そう告白するワカメは伏し目がちに続ける。
「家族をダシに使って、逃げ出そうとしているのよ。ダシは私なのにね」
 変な冗談を織り交ぜ無理やり笑顔を作る妹の姿に、カツオは言葉を探しあぐねた。
「そんなこと、ない。ワカメは、がんばってるだろ。……僕なんかに言われても嬉しくないだろうけど」
 それを聞いたワカメは、心無しか嬉しそうに言う。
「そんなことないわ。……いやだなあ、お兄ちゃんはいつまでもお兄ちゃんなんだから」

55 :1:2018/08/12(日) 22:27:40.47 ID:CNZCmybvk
「こんなちゃらんぽらんでも、か?」
「そうね」
「こいつ」
 冬の星が綺麗である。カツオは妹に掛けるべき言葉を見つけ、口を開く。
「もうちょっとがんばってみろよ」
「……うん」

56 :1:2018/08/12(日) 22:28:29.25 ID:CNZCmybvk
 思ったよりも素直に兄に同意する妹。
 その返答にカツオは少しばかり安心した。
「……ああ、マスオ兄さんに悪いことしちゃったなあ」
「大丈夫よ。マスオ兄さん、少し酒癖悪いところあるけど、根はやさしいじゃない」
「そうなんだけどさ」
 その時、公園の入り口から三つのお団子を持った頭が入って来た。

57 :1:2018/08/12(日) 22:29:14.95 ID:CNZCmybvk
「……姉さん」
「ほら、帰るわよ」
 ぶっきらぼうに言い放つサザエ。
 隣でワカメに促され、カツオはゆっくりと立ち上がる。
 小さい声で、ただ「ごめん」と言う他無かった。

58 :1:2018/08/12(日) 22:30:39.99 ID:CNZCmybvk
「マスオ兄さん、ごめん」
「いや、それより、僕の方こそ、ひどいこと言ってごめんよ」
「ううん」
 お互い謝罪したところで、真ん中にいる波平が口を開く
「今回は互いに行き過ぎたが、まあこれに懲りて思いやりを持ちなさい」
「はい。すみませんでした、お義父さん」

59 :1:2018/08/12(日) 22:31:39.56 ID:CNZCmybvk
「カツオも分かったか?」
「……はい」
「母さん」
 波平が声を掛けると、すぐにフネが台所から出てきた。
「はいはい。今持っていきますよ」
 その手元には徳利と、三つのお猪口。

60 :1:2018/08/12(日) 22:32:53.05 ID:CNZCmybvk
「まあなんだ。父さんも色々と口うるさいことを言うが、何もお前が憎くて言ってるわけじゃない。別にお前がその、らのべとかいうのを書きたいというならもうそれを止めん。自分が納得いくまでやってみたらどうだ」
「父さん……」
「それでもダメなら、大丈夫。お前には家族がいる。決してお前のことを見離したりしない家族がな」
「……っ!」
 カツオの目からボロボロと涙がこぼれ落ちる。
「……ずるい、ずるいよ、父さん」

61 :1:2018/08/12(日) 22:33:50.22 ID:CNZCmybvk
「親父と言うのはいつの時代もずるいものだ。ほれ、もう一杯呑まんか」
「はい、いただきます……」
「お義父さん、僕ももう一口……」
「マスオ君もかね。ちょっと呑み過ぎじゃないのか?」
「えー、僕もまだまだいけますよお」
「あなた! あなたはダメ! 呑み過ぎよ!」
「ちぇ、サザエに言われちゃあしょうがないかあ」
 笑いが起こる食卓。
 そんな今日の磯野家である。

62 :1:2018/08/12(日) 22:35:59.17 ID:CNZCmybvk
♪ででんでんででん
♪ででんでんででん
♪ででんでんででんでん
(カーン!)

m(_ _)m

63 :1:2018/08/12(日) 22:36:19.25 ID:CNZCmybvk
ありがとうございましたー

64 :風吹けば名無し:2018/08/13(月) 13:07:30.15 ID:2BTsxhT2l
>>61
<親父というのはいつの時代もズルいものだ

グッときましたわ

65 :1:2018/08/13(月) 22:36:18.64 ID:RoDIlND1z
>>64
嬉すぃ

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