金正恩選手、現役引退へ

風吹けば名無し

本拠地、平壌で迎えたミサイル実験
先発テポドンが不発、水爆も勢いを見せず大失敗だった
北朝鮮に響く人民のため息、どこからか聞こえる「今年も経済制裁だな」の声
無言で脱北していく人民達の中、現在の総書記金正恩は独り官邸で泣いていた
ミサイル発射で手にした栄冠、喜び、感動、そして何より外国から手に入る資源・・・
それを今の北朝鮮で得ることは殆ど不可能と言ってよかった
「どうすりゃいいんだ・・・」金正恩は悔し涙を流し続けた
どれくらい経ったろうか、金正恩ははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たい机の感覚が現実に引き戻した
「やれやれ、帰って交渉の準備をしなくちゃな」金正恩は苦笑しながら呟いた
立ち上がって伸びをした時、金正恩はふと気付いた

「あれ・・・？人民がいる・・・？」
官邸から飛び出した金正恩が目にしたのは、外まで埋めつくさんばかりの人民だった
千切れそうなほどに旗が振られ、地鳴りのようにコンギョが響いていた
どういうことか分からずに呆然とする金正恩の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた
「ジョンウン、発射実験だ、早く行くぞ」声の方に振り返った金正恩は目を疑った
「き・・・金日成さん？」　「なんだ黒電話、居眠りでもしてたのか？」
「き・・・金正男？殺したはずじゃ」　「なんだ正恩、かってに兄弟を殺しやがって」
「金正日将軍・・・」　金正恩は半分パニックになりながらスコアボードを見上げた
１番：金哲柱　２番：金正男　３番：金英柱　４番：金日成　５番：金亨稷　６番：金正恩　７番：金正哲　８番：金与正　９番：金正日
暫時、唖然としていた金正恩だったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった
「勝てる・・・勝てるんだ！」
金正日からミサイル発射ボタンを受け取り、発射場へ全力疾走する金正恩、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・

翌日、官邸で冷たくなっている金正恩が発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った